独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい

「すみません」

 カタコトの日本語が聞こえ、振り返ると今まさに思い浮かべていた男性が入り口に立っていた。

 肩幅が広く、大きな傘からもはみ出していたのだろう。肩から腕にかけて濡れている。

 雨の日に用意しているタオルを手に〈よろしければ、お使いください〉と差し出す。

〈ありがとう。さすが『おもてなし』の国ですね〉

 お店どころか日本を褒められ、嬉しく思う。和菓子とともに日本を好きになってくれたら、これほど喜ばしいことはない。

〈迷っていましたが、今確信しました〉

〈なにをですか?〉

 晴れやかな表情をする男性に、こちらも心が明るくなって話を先へと促す。

〈仕事で大きな茶会を開く予定があります。そこで出す和菓子を『川瀬』に頼むべきだと〉

 話の方向が急に変わって驚きつつも、『川瀬』の和菓子を気に入ってくれたのだと思い、心が弾む。

〈ありがとうございます! 大きな、というとどの程度でしょうか。たくさんのご注文となりますと、職人と相談の上……〉

〈茶会に、あなたを派遣してもらうことはできますか?〉

 至極真面目な顔をして言うものだから、一瞬、英単語がわからなくなったのかと錯覚する。

 派遣って、和菓子を納品するときに通訳として付き添ってほしいとか、そういう?
< 81 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop