独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい
ガラスの引き戸風の自動ドアをたたく音が聞こえ、翼さんとふたり、音のした方へ顔を向ける。
ドアは鍵が閉まっていて、『準備中』の看板が出ているはずだ。
ただ、店の中で電気をつけてパソコンを開いていたから、明かりが外に漏れていたのかもしれない。
周りには飲食店が多く、今の夜9時の時間はまだ開いている店ばかり。食事をした帰りに、和菓子屋にでも寄って帰ろうかという人だろうか。
ガラスには立っている人の大きな影が映り、一瞬ためらいはしたものの、「閉店しましたと声をかけて来ますね」と腰を上げる。
「いや。由莉奈ちゃんは座ってて」
肩に手を置かれ、椅子に逆戻りする。
翼さんの後ろ姿を、頼もしく思いながら様子を見守る。
鍵を開け、ガラス戸を手で押し開けると「すみません。本日の営業は……」と説明をしかけたところで、相手の人の声が聞こえた。
「由莉奈は、まだこちらに?」
自分の名前と、聞き覚えのある声に跳ねるように立ち上がる。
開いたドアから体をずらした翼さんと一緒に、入り口から店内をのぞく人物。
「海斗さん……どうして」
「就業時間は終えていますね?」