独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい
一緒に来るしかなかったものの、無言で歩き続ける。
どうしてお店を知っているの? 私は海斗さんには、『和菓子に携わる仕事』くらいしか話していない。
しかもあんな風に、押しかけるような真似。
近い距離とはいえ、マンションまで無言で帰ると、玄関の扉を閉めたところで後ろから腕を回される。
「やめてください!」
声を上げると、想像とは違う弱々しい声が耳に届く。
「頼むから、少しだけこのまま」
回された腕は体を引き寄せ、抱き締められる。
それだけで、切なくなるから嫌になる。
しばらくした後、腕は解かれ解放される。
「悪かった。無理矢理」
そう言うと顔を背けたまま、中へと上がって歩いていってしまう。
私も続いて部屋に入って絶句する。
キッチンには料理が作られ、あとはテーブルに並べるだけの状態になっていた。
私、仕事に夢中で遅くなるって連絡、していない。
「ごめんなさい。連絡……」
「いや。もうここへは帰ってこないのかと思った」
消えそうな声に胸が押し潰されそうになり、背中に抱きつきたくなる衝動を抑える。
だから、なんだって言うの?
彼は、私の知っている海斗さんではないというのに。