独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい
行く前から下調べをし、色々と書き込んだパンフレット。それがなくなったら、私は右も左もわからない。
けれど私の気持ちを無視して、パンフレットは遥か彼方に飛んで行ってしまった。
風は一瞬で、今は止まっている。そんな中、乱れた髪を直す気も起こらずに、立ち尽くし呆然とする。
「全く、見ていられないな」
ため息混じりの声と共に服が頭から降ってきて、思わずその服を掴む。その服からはふんわりと大人の男性の匂いが香って、胸が騒がしくなる。
「海斗さん……」
海斗さんは頭をかき、少しだけバツが悪そうに目を背けて立っている。
「由莉奈ちゃんが『ひとりを満喫しようと思って』と言っていたから、ここでは声をかけるつもりはなかったんだ」
被せられた服を両手で握る。それはウィンドブレイカー。軽い触り心地とは裏腹に、速まる鼓動はおさまらない。
「それに、『俺みたいな悪い男は』と、言った手前、一緒に旅行しないか? とは言い出しづらくて」
決まりが悪そうにこちらに目を向けられ、「ふっふふ」と笑ってしまった。