ひと夏の思い出 と 一生の思い出【完】
「どこへ行こうとしてるのか知らないけど、ようやく捕まえたんだから、逃げるの禁止」
「えっ⁉︎」
驚く私をよそに、社長は私の襟足にひとつキスを落とす。
「大丈夫。俺、釣った魚はたっぷりの餌で溺愛する主義だから」
「えっと……?」
それは、どういう意味?
私が疑問に思っていると、腰に巻きついてた手が、20㎝ほど上に上がって来る。
えっ……
私は昨夜のことを思い出して、恥ずかしくて動けなくなる。
「それから、俺、魚は生涯で1匹しか釣らない主義だから、今、釣った魚に逃げられると困るんだよな」
それって……
「愛人ということでしょうか?」
私がそう尋ねた途端、柔らかな膨らみに添えられている手の動きが止まった。
「は?」
だって……
「社長は頭取の娘さんとご結婚なさるんですよね?」
愛人でも一緒にいたいと思う人もいるのかもしれないけど、私は、こっそり隠れて人のものを無断で拝借するような真似はしたくない。
「はぁぁぁ
何か変だと思ったら、そういうことか」
なぜか社長は、大きなため息を吐いた。
「じゃあ、実里は、どういうつもりでこんなことをしたんだ? 略奪するつもりじゃないんだろ?」
どうしよう……
なんて言えばいいの?
「ひと夏の……思い出に……」
社長の…ですけど。
「思い出だけで終わらせるつもりで抜け出そうとしたのか。
いや、ダメだ! そんなことは絶対にさせない。実里はもう俺のものだ、一生」
じゃあ、やっぱり愛人……
「実里、ずっと好きだった。実里の才能を認めてるのは本当だけど、それとは別に俺は実里を一人の女性として愛してる。それこそ、中学生の頃から……」
「えっ⁉︎」
そんなはずない。だって、だったら、なんで今まで何も言わなかったの?
「俺が中3の時、1年生の女の子が短歌で入賞して表彰されたんだ。緊張して膝を震わせながらステージに上がる姿を見て、可哀想に、支えてやりたいって思った。けれど、その後、透き通った声で受賞した短歌を読み上げるのを聞いて、生まれて初めて、胸を鷲掴みにされたんだ」
うそ……
「だから、合格発表で実里を見かけた時、声を掛けずにいられなかった。でも、俺のことをなんとも思ってない子に告白する勇気は、俺にはなくて……」
なんとも思ってない? 私が?
「会社が軌道に乗った時、次に欲しいと思ったのは、思い出の中の実里だった。だから、無理を承知で連絡を取った。けど、社員として呼んでしまった以上、俺から誘ったら、セクハラになる。だから、俺からは誘えなかった。そう思ってたから、昨日、実里から誘ってくれて、すごく嬉しかったのに、それが、ひと夏の思い出!? ふざけるなよ」
社長は、私の顔の両側に手をついて、上から私を見下ろす。
「俺は、一生、実里を離さない。例え、昨日の実里が、ただの大人の女ごっこで、ただのひと夏の思い出作りだったとしても、俺はもう……」
そのまま、唇が重ねられる。
もう、昨夜から何度目か分からないそれは、私の理性を奪うには十分な熱を持っていた。
私は、社長の首に腕を回して、その熱いくちづけに応える。
そして、その唇が離れた時、私は初めて本心を口にした。
「えっ⁉︎」
驚く私をよそに、社長は私の襟足にひとつキスを落とす。
「大丈夫。俺、釣った魚はたっぷりの餌で溺愛する主義だから」
「えっと……?」
それは、どういう意味?
私が疑問に思っていると、腰に巻きついてた手が、20㎝ほど上に上がって来る。
えっ……
私は昨夜のことを思い出して、恥ずかしくて動けなくなる。
「それから、俺、魚は生涯で1匹しか釣らない主義だから、今、釣った魚に逃げられると困るんだよな」
それって……
「愛人ということでしょうか?」
私がそう尋ねた途端、柔らかな膨らみに添えられている手の動きが止まった。
「は?」
だって……
「社長は頭取の娘さんとご結婚なさるんですよね?」
愛人でも一緒にいたいと思う人もいるのかもしれないけど、私は、こっそり隠れて人のものを無断で拝借するような真似はしたくない。
「はぁぁぁ
何か変だと思ったら、そういうことか」
なぜか社長は、大きなため息を吐いた。
「じゃあ、実里は、どういうつもりでこんなことをしたんだ? 略奪するつもりじゃないんだろ?」
どうしよう……
なんて言えばいいの?
「ひと夏の……思い出に……」
社長の…ですけど。
「思い出だけで終わらせるつもりで抜け出そうとしたのか。
いや、ダメだ! そんなことは絶対にさせない。実里はもう俺のものだ、一生」
じゃあ、やっぱり愛人……
「実里、ずっと好きだった。実里の才能を認めてるのは本当だけど、それとは別に俺は実里を一人の女性として愛してる。それこそ、中学生の頃から……」
「えっ⁉︎」
そんなはずない。だって、だったら、なんで今まで何も言わなかったの?
「俺が中3の時、1年生の女の子が短歌で入賞して表彰されたんだ。緊張して膝を震わせながらステージに上がる姿を見て、可哀想に、支えてやりたいって思った。けれど、その後、透き通った声で受賞した短歌を読み上げるのを聞いて、生まれて初めて、胸を鷲掴みにされたんだ」
うそ……
「だから、合格発表で実里を見かけた時、声を掛けずにいられなかった。でも、俺のことをなんとも思ってない子に告白する勇気は、俺にはなくて……」
なんとも思ってない? 私が?
「会社が軌道に乗った時、次に欲しいと思ったのは、思い出の中の実里だった。だから、無理を承知で連絡を取った。けど、社員として呼んでしまった以上、俺から誘ったら、セクハラになる。だから、俺からは誘えなかった。そう思ってたから、昨日、実里から誘ってくれて、すごく嬉しかったのに、それが、ひと夏の思い出!? ふざけるなよ」
社長は、私の顔の両側に手をついて、上から私を見下ろす。
「俺は、一生、実里を離さない。例え、昨日の実里が、ただの大人の女ごっこで、ただのひと夏の思い出作りだったとしても、俺はもう……」
そのまま、唇が重ねられる。
もう、昨夜から何度目か分からないそれは、私の理性を奪うには十分な熱を持っていた。
私は、社長の首に腕を回して、その熱いくちづけに応える。
そして、その唇が離れた時、私は初めて本心を口にした。