ひと夏の思い出 と 一生の思い出【完】
私が勤めるのは、スマホゲームの開発をしている会社で、社長が大学生の時に起業してから、まだわずか7年の新しい会社だ。
社長は、私の中学の頃からの先輩だったけれど、地味な私は、彼とは全く一面識もなかった。
当時から生徒会長をしていた有名人の社長とは違い、私は、文芸部で誰も読まない詩や小説を綴っているような人間だったから。
そんな私が高校の合格発表を見て帰ろうとした時、突然、声を掛けられた。
「成瀬さん!
成瀬 実里さんだよね?」
なんで私の名前を知ってるの?
わけが分からないまま、私はこくりとうなずく。
「やっぱり。よく作文で表彰されてた子だよね?
俺、2年前の文芸部の会報誌読んだよ。
すっげぇ、おもしろかった!」
確かに、文芸部として、いろんな作文や詩歌のコンテストに応募して何度か表彰をしてもらったことはある。
「あ、ありがとうございます」
そんな表彰なんて誰も聞いてないし、覚えてないと思ってたのに……
「俺さ、今、演劇部にいるんだけどさ、脚本書いてくれないかな?」
「えっ⁉︎」
先輩はにこにこ笑ってはいるものの、冗談を言っているようには見えない。
「あ、悪い! 知らないやつに突然こんなこと言われても、怖いだけだよな。俺は」
先輩が自己紹介を始めようとするので、私は慌てて遮った。
「知ってます。私が1年生の時の生徒会長さんでしたから。坂本 憲史さんですよね? 野球部の」
そう、彼は、野球部のエースだったはず。
なんで演劇部に……?
「あ、知っててくれたんだ?
でも、野球はやめたんだよね。
肘を壊したからさ」
「あ……」
悪いこと言っちゃった。
私が申し訳なく思って俯くと、突然、両頬を両手で挟んで上を向かされた。
「気にしてないから、気にしなくていいよ。
それより、脚本! 頼める?」
こんな至近距離で、男の人と目を合わせるなんて、恥ずかしすぎる。
私は、慌てて、両頬をガードされて動かしにくい頭で無理やりこくこくとうなずいた。
すると、先輩はその両手を離して解放してくれる。
「良かった。じゃあ、書けたら、連絡ちょうだい」
そう言う先輩に押し切られて、私たちはこの時初めて出会って、初めて連絡先を交換した。
社長は、私の中学の頃からの先輩だったけれど、地味な私は、彼とは全く一面識もなかった。
当時から生徒会長をしていた有名人の社長とは違い、私は、文芸部で誰も読まない詩や小説を綴っているような人間だったから。
そんな私が高校の合格発表を見て帰ろうとした時、突然、声を掛けられた。
「成瀬さん!
成瀬 実里さんだよね?」
なんで私の名前を知ってるの?
わけが分からないまま、私はこくりとうなずく。
「やっぱり。よく作文で表彰されてた子だよね?
俺、2年前の文芸部の会報誌読んだよ。
すっげぇ、おもしろかった!」
確かに、文芸部として、いろんな作文や詩歌のコンテストに応募して何度か表彰をしてもらったことはある。
「あ、ありがとうございます」
そんな表彰なんて誰も聞いてないし、覚えてないと思ってたのに……
「俺さ、今、演劇部にいるんだけどさ、脚本書いてくれないかな?」
「えっ⁉︎」
先輩はにこにこ笑ってはいるものの、冗談を言っているようには見えない。
「あ、悪い! 知らないやつに突然こんなこと言われても、怖いだけだよな。俺は」
先輩が自己紹介を始めようとするので、私は慌てて遮った。
「知ってます。私が1年生の時の生徒会長さんでしたから。坂本 憲史さんですよね? 野球部の」
そう、彼は、野球部のエースだったはず。
なんで演劇部に……?
「あ、知っててくれたんだ?
でも、野球はやめたんだよね。
肘を壊したからさ」
「あ……」
悪いこと言っちゃった。
私が申し訳なく思って俯くと、突然、両頬を両手で挟んで上を向かされた。
「気にしてないから、気にしなくていいよ。
それより、脚本! 頼める?」
こんな至近距離で、男の人と目を合わせるなんて、恥ずかしすぎる。
私は、慌てて、両頬をガードされて動かしにくい頭で無理やりこくこくとうなずいた。
すると、先輩はその両手を離して解放してくれる。
「良かった。じゃあ、書けたら、連絡ちょうだい」
そう言う先輩に押し切られて、私たちはこの時初めて出会って、初めて連絡先を交換した。