ひと夏の思い出 と 一生の思い出【完】
「社長、あの、相談があるんですけど……」

私は、金曜の終業時刻を狙って、社長室の社長に声を掛ける。

「ん? 実里、どうした?」

社長は、立ち上がってこちらに来る。

「いえ、あの、できれば、お酒でも飲みながら……」

緊張で声がうわずる。

乙女ゲームの女性たちは、さらっと男性を誘うのに、私はそれすらままならない。

「ああ、分かった。
 これだけ片付けるから、そこで待ってろ」

社長は目の前の応接セットのソファーを指し示す。

「はい」

ソファーに腰を下ろしながら、私はほっと胸を撫で下ろした。

第一関門突破。

社長の仕事が終わるのを待ち、私たちは駅前のバーへと向かった。

みんなでいつも行く居酒屋ではなく。

「他の人に聞かれたくないので、いつもとは違うお店に……」

と私がお願いしたから。

< 8 / 12 >

この作品をシェア

pagetop