双子の異世界・奇跡の花束
ミネルアのショートヘアは皆突っ込まなかった。


団長を除いては。


「ミィ~なんであんな綺麗な髪を・・」


仕事から帰ってきた団長は酒をちびちびと飲みながら悲しそうにしている。
太い眉毛が困り果てている。

「でもこの方が動きやすいし、あのね!今日はヴォルスに弓を教えてもらったんだよ?」


ドキ。


マズイ。それは言っては駄目だと釘を刺すのを忘れたヴォルス。

だが時はすでに遅し。

団長は持っていたパンを握り潰した。


「ヴォ~~ルス~~~・・何勝手な真似してくれてんだぁ?」


団長の額に筋が現れている。三つも。


「ミィにそんな事させる必要ねえだろ!?お前が守るってタンカ切ったんだからよ!」


「・・それはそうだけど、でももしもの時ミネルアが自分で身を護れたら」


「もしもなんかあっちゃ困るんだよ!!だからてめえを仕事から外してんだ!張り倒すぞこら!!」


こんなに怒っている団長は初めて見たので、ミネルアは懸命に抑えようとした。


「や・・やめて!違うの!私がやりたいって言ったのよ!!」


「駄目だ!危ない事はさせねえ!おまえは大事な_」
「おとうさん!!!」


咄嗟にミネルアはそう呼んだ。


「・・・へ?」



しん・・・

皆一斉に静まり返った。

団長はヴォルスに掴みかかろうと手を出したまま固まった。

その手はふるふると震えている。

「今なんて・・」

「おとうさん」


ぶわっ

団長の目から雨が降った。


「初めておとうさんてえ~~~」


「うん、言ったわ」


「人生最良の日!!記念日だ!!」


「うん、だからやめておとうさん」



ぎゃはははッ


皆一斉に笑い出す。


三年間溺愛を重ねて重ねて、それでもミネルアは団長をおとうさんとは呼ばなかったのだ。

そんな団長が急におとうさんなんて呼ばれたら、泣いて喜ぶだろう。


「ミィ~~!!」


ぎゅうううっ


「う、うぐっ・・苦し・・」


分厚い胸板で抱きしめられ、圧死寸前だ。


「ちょ、団長!ミネルアが死ぬ!!」

「あ、ああああっ!しっかりしろミィ~~~」



その日の晩餐は三年間で一番盛り上がった。




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