双子の異世界・金色のはなびら
「そこで何してる?」



聞いたことのない低い声が響いた。



「えっ!あっ!」



後ろを振り返ると、皇帝クロノスが立っていた。



「皇帝っあっっ、クロノス様っ!」



慌てて椅子から立ちあがりバルコニーの手すりの方へ後ずさった。

その時だ

「あっ!」



勢いがよすぎて上半身が手すりから外に投げ出される。


「…っ!」


とっさにクロノスはエレノアの腰を支えた。


「ひゃっ!」


あと1秒遅れていたら落ちていただろう。



「あ、危なかったぁ…」

「お前が言うのか」

「ごごごっ…ごめんなさいっ」


すぐに頭を下げて、そのまま上げる事が出来なかった。


「ニャー」



不穏な空気を打ち消すかの様に、猫がエレノアの足にすり寄る。


「猫ちゃん…」


なんだか猫の優しさに助けられた。


「ルゥ」

「ニャー」


猫はクロノスが呼ぶとすぐに駆け寄った。



「クロノス…様の猫だったんですか?」

「あぁ」



クロノスはエレノアをじっと見つめる。


_ルゥは誰にもなつかないんだがな…この女何かしたのか?



じっと見透かされるように見つめられ、エレノアからすれば蛇に睨まれた蛙のように感じた。


「し、失礼しました!」


空気に耐えられず、エレノアは扉を開けた。



「まて」

「はっはい!」

「お前、仮にも側室候補だろう?名前も名乗らず行くのか?」

「あ…し、失礼しました」

「まぁ、明日帰るのならば必要ないが」


そう言われ、表情が強ばった。



_私には…帰れる場所なんか………ナイ。



「わたくしは、ユミール王国第一王女エレノア・ユミールと申します。
どうぞお見知りおき下さい」



何度も小さな頃から教えられた最敬礼をし、エレノアは足早にその場から離れた。




「ニャァー…」

クロノスはルゥが鳴くので抱き上げると


「ルゥ…お前…!?」


クロノスは自分の目を疑った。


ルゥを側に置くようになってから一年と数ヶ月。

開かれることのなかった片方の瞳が、今開かれたのだ。

しっかりと透き通るようなエメラルドの瞳が。

駆けていくエレノアをクロノスはとっさに見た。



_いや、まさか。偶然だ。俺も馬鹿な想像をした。あんなものを見たからだ…





“いつか…この痛みが無くなりますように。元気になりますように”

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