悪役令嬢はお断りします!~二度目の人生なので、好きにさせてもらいます~
声は私たちがいる場所の斜め右方向から聞こえてきているけれど、バラの生垣が壁となっているためふたりの姿は見えない。
ただ、人の気配はひしひしと感じる。
「あいつはなぜこのタイミングで……!」
アイザックが頭をかかえだした。
「マイカ待てって。アイザックとシルフィは今ふたりきりなんだから、邪魔しちゃダメだよ。ちなみに俺たちもふたりきりだ」
「えぇ、そうですわね。ふたりずつ分かれたのでふたりですわ。それより、シルフィ様の件です。天使様がオオカミに襲われたらどうするおつもりで?」
「アイザックを信じてやってくれ。五年も一途なんだ」
「私もずっと人知れず物陰から天使様を見守ってきました」
「物陰……隠れていたのか」
「ウォルガー様、この迷路を攻略できないのですか? シルフィ様のもとに向かいたいのですが」
「バラの迷路は庭師が毎年少しずつ変えているんだ。だから、わからないよ」
私はウォルガーとマイカの会話に気を取られた。
私たちを捜しているみたいだけれど、こちらからふたりのもとに行った方がいいのかな? でも、ウォルガーはマイカのことが好きだから、ふたりでいたいだろうし……。
「シルフィ」
ぼんやりとしていると、突然、耳もとでささやくようなアイザックの声が聞こえてきたため、私は体温が上昇したのを感じる。
マイカのことを考えていたため、無防備になっていたところにアイザックの低い声は反則だ。
どきどきと速まっている胸を押さえながらアイザックを見ると、唇に人さし指をあてている。
ジェスチャーで先に進むように促されたのでうなずいた。
どうやら静かに先に進むらしい。
私が一歩前に足を踏み出そうとしたら、アイザックの腕が伸び私の手を掬うように触れてつながれた。
そのせいでただでさえ速まっていた鼓動がますます速まってしまう。
手をつないでいるため必然的に距離が縮まっている。こちらの鼓動の速さに気づかれないようにと願いつつ、私は彼にリードされる形で先に進んだ。