悪役令嬢はお断りします!~二度目の人生なので、好きにさせてもらいます~

 ──ちょっと待って。いったい、なんだったの? 今のは。

 なにが起きたのかわからずに私はただ呆然としている。
 その場にいた生徒たちもエクレール様のもとへと集まっていく。その上、騒ぎを聞きつけた近くの教室から様子を探りにきた生徒たちも集まりだす。

「ひどいですわ。シルフィ様」
「エクレール様のことを突き飛ばすなんて」
 ティーナたちの言葉にほかの生徒たちの視線がいっせいに向けられ、私は身を固くした。
 ゲームの静止画と一緒だ。シナリオの一部に、ヒロインが悪役令嬢のシルフィから階段で突き飛ばされて落ちるというシーンがある。
 私は現実世界では突き飛ばしてはいないし、エクレール様は自作自演で階段から落ちた。

 でも、状況的には私が疑われている。

 ゲームどおりならば、ここでウォルガーが登場するはずだが、おそらく殿下の登場だろう。
 今のところ、ウォルガーの代わりにヒーローポジションを殿下が担っているから。

「みんな集まってなんの騒ぎだ?」
 想像どおり殿下がやって来たので、私の脳裏に最悪の状況が浮かんだ。

「エクレール! どうしたんだ」
 殿下は悲痛な声をあげると、ティーナたちに介抱されているエクレール様を抱きしめた。

「シルフィ様が私のことを……」
 エクレール様は殿下の胸に顔を埋めてしがみつき、エクレール様の取り巻きであるティーナたちが口々に言葉を放つ。

「シルフィ様がエクレール様を階段から突き飛ばしたんです」
「私たちが証人ですわ」
 殿下は三人の言葉を信じたらしく、鬼のような形相で私を睨む。
 胃に鈍痛が走るが、ここできちんと否定しなければますます窮地に立たされる。
 私は意を決して口を開く。

「誤解です。私はそんなことをしておりません」
 真っすぐ殿下を見すえてはっきりと告げると、ありがたいことに集まっていた生徒たちも賛同してくれた。
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