悪役令嬢はお断りします!~二度目の人生なので、好きにさせてもらいます~
第三章 悪役令嬢より悪役がいるなんて!
 時が過ぎるのは本当に早い。
 シルフィとして生活して、あっという間に王立学園の入学式を迎えた。

「……いよいよゲーム本編が始まるのね」
 私はため息を吐き出しながら姿見の前に立つ。
 そこには、十六歳の自分の姿が映し出されている。

 成長した自分の姿は、ゲームのパッケージに描かれているままの悪役令嬢、シルフィ・グロース。

 制服は、上がクリーム色のブラウスに灰色のブレザー。ブレザーの裾と袖の部分は黒地で白のラインが入っている。
 下は黒のスカート。毎日プレイしていたのですっかり見慣れていた。
 襟には、王立学園の校章である書物を持った孔雀の襟飾りがついている。

 襟飾りは家のランクを瞬時に判別できるようになっており、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズの四種類に色分けされていた。
 プラチナはミニム王国の王族または、その婚約者。ゴールドは公・侯爵。シルバーはそのほかの貴族。ブロンズはさらにそのほかの富裕層。

 なので、私はゴールドだ。

「学園生活どうなるのかなぁ」
 ウォルガーとの関係はとても良好。でも、ヒロインのマイカがウォルガールートに入ったらどうなるかわからない。
 もし、仮にウォルガーがマイカのことを好きになっても、絶対に邪魔はしないようにしよう。 
 そして、なるべくマイカと関わらないようにして、断罪の種をつくらないでおこう!

「お嬢様。どうかなさいましたか? ずっと鏡をご覧になっておりますが」
 メイドの声にハッと振り返ると、壁際で控えていたメイドたちが心配そうな表情を浮かべてこちらを見つめていた。

「いえ、この制服似合うかなって……」
「ご安心くださいませ。お嬢様の制服姿は王都一ですわ。いえ、ミニム王国一です!」
「ありがとう。お世辞でもうれしいわ」
 私は微笑むと、メイドからドクターバッグタイプの通学鞄を受け取る。二種類のブラウンのレザー生地を組み合わせて縫われたもので高級感がある。

 この鞄はお父様が任されている領地、アッシャードの鞄職人が作った物で、入学のお祝いにお父様経由でいただいたもの。
 アッシャードは貴族と庶民との距離が近く、温かい人柄の領民ばかりなので大好きだ。
 職人にお礼のお手紙を出したけれど、直接気持ちを伝えたいので休みの時に訪れたい。

「馬車の準備が整っております。そろそろ出発のお時間ですわ」
「えぇ。今、行くわ」
 私は大きくうなずき、不安と期待が入り交じった複雑な心のまま学園へ向かうことにした。



 馬車に揺られること十分、私は王立学園に到着した。
 馬車止めで降ろしてもらい、これから四年間通う校舎を眺める。

 白を基調とした建物は三角の尖塔がふたつ左右に付属され、少し離れた所に灰色の旧校舎がうかがえた。
 ミニム王国に住んでいる王族、貴族の子息、子女たちは、十六になったらこの学園に入学する。

 それが昔からの習わしだったが、最近はステータスの一環として富裕層の子たちも通うようになったそうだ。

『ありあまる大金の力で恋愛攻略』の主人公であるマイカは、そんな富裕層のひとりだ。

 世界中に数多ある商会の中でも、潤沢な資金と絶対的権力、そして広い人脈を誇っている商会を『十大商会』と呼び、マイカはその中のオルニス家の出身。

 もともと西大陸にあるグランツ国に本店を置くオルニス商会は、北大陸進出のために支店をミニムに置いたのをきっかけにこの学園に通うことに。
 慣れない国でも明るく前向きなヒロイン・マイカは、学園内で攻略対象者と出会い恋に落ちる。
 それがゲームの始まりだ──。

「マイカはもう登校しているかしら?」
 私は辺りを見回す。
 馬車止めには馬車が十数両停まっていて、真新しい制服に身を包んだ生徒が続々と降りてくる。

 在校生はもうすでに登校しているので、ここにいるのは新入生たちばかり。生徒たちはやや緊張した面持ちで、石畳を歩き建物へと向かっていく。
 もしかしたらあの中にマイカが?と思って探していると、突然背中に強い衝撃が走り、バランスを崩して尻もちをついた。しかも、最悪なことに足をくじいたようだ。

「痛っ……」
 痛む右足をさすれば、私の体を覆うように影が差す。
 ゆっくりと顔を上げると、ハニーゴールドの髪の少女が立っていた。

 彼女は緩やかにウェーブがかかった肩下までの髪を手で払うと、猫を思わせる蜂蜜色の瞳で私を見下ろし、器用に片方の口角だけ上げると喉で笑う。
 
 彼女の左右には取り巻きである双子の男爵令嬢ティーナとリーナの姿があった。
 
 入学早々、最悪。
 私は今すぐ家に帰りたい衝動に駆られていた。
 嘆息を漏らすと、私は苦々しく彼女の名を呼ぶ。

「──エクレール」
 彼女はラバーチェ伯爵の子女、エクレール・ラバーチェ。





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