悪役令嬢はお断りします!~二度目の人生なので、好きにさせてもらいます~
 さっきまでの嫌な気分が吹っ飛び、アイザックに再会できた喜びが爆発した。手紙のやり取りはしていたけれど、こうして直接会えるのはうれしい。

「おかえりなさい」
「ただいま。会いたかった」
 アイザックはゆっくり息を吐くと、私をぎゅっと抱きしめた。
 懐かしいその感覚に、一瞬、少年のアイザックの面影が頭をよぎった。

「私も会いたかったよ。ねぇ、ウォルガーたちにも会った?」
 その時、ちょうどタイミングよく「おーい、大丈夫か?」という声が聞こえた。振り返ると、ウォルガーが手を振りながら走ってくるところだった。
 到着したウォルガーは、脇腹に手をあてて肩で息をしている。

「いやー、アイザックって足が速いな。昔はラルフより遅かったのに」
「あの頃はな」
「ねぇ、ウォルガー。アイザックが入学するのを知っていたの?」
「いや、知らなかったよ。さっき馬車から降りてびっくり。女子たちの黄色い声が聞こえるなぁと思って見てみると、アイザックがいたんだ。最初はまったく気づかなかったよ。ラルフなんて、あいつ、口をぽかんと開けていたぞ。しかし、こっちに留学するなら言えよ」
「ごめん。驚かせようと思って」
「それなら大成功だ。再会できたってことは、叶ったんだな」
「あぁ。詳しくは後で話すよ。これから四年間は一緒にいられるから、時間はたっぷりあるし。なぁ、それよりもさっきの女は誰なんだ?」
 アイザックが足早に教室に向かっていくエクレールの背を見ながら尋ねた。するとウォルガーが肩をすくめて言う。

「エクレール・ラバーチェ。元四大侯爵家だ」
「元?」
「そう。エクレールの三代前の先祖が領地で不正を働いたんだよ。それを当時の陛下に諫(いさ)められ、伯爵へ降格になったんだ。そして失脚したラバーチェ家に代わってシルフィの家、グロース家が四大侯爵になったんだ。それ以来、ずっとグロース家のことを恨んでいるんだよ。一族全員でな」
「逆恨みじゃないか」
「そう。完全な逆恨み。でも、お前のおかげでおとなしくなるんじゃないか」
「当然だろ。大切なシルフィを傷つけられたんだ。ところでラルフは?」
振り返ると、大きく肩で息をしながら座り込んでいるラルフの姿が目に入った。

「ラルフ、大丈夫かしら?」
「あいつ、成長するにつれ、体力がなくなっているよな。そのぶん頭いいけれど」
 ウォルガーは苦笑いを浮かべると、ラルフのもとに向かった。



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