悪役令嬢はお断りします!~二度目の人生なので、好きにさせてもらいます~
「もうすぐだわ。あと数日で目標金額に手が届く。ついに夢が叶う。楽しみだなぁ」
歓喜を含んだつぶやきは、誰にも聞かれることはない。
本当に長かった。ダブルワークで休みと睡眠時間を削り、旅行や欲しいものを我慢する生活。でも、もうすぐそのつらい生活からも解放される。
ノートに達成という文字が書かれた瞬間、カフェ経営という夢の鍵を手に入れられるのだ。
カフェ経営は私が高校一年生の頃からずっと憧れていた。
第一志望の高校に合格できず、すべり止めの高校に入学。入りたかった高校の制服を着ている生徒たちを見るたびに、自分の実力不足を責める日々。
もともとコミュ力が高くないため、クラスにもなじめず居場所がなかった。
そんな時にふらっと立ち寄ったカフェによって、私の人生は激変した。
オーナーこだわりの家具や雑貨で彩られた温かな空間。ほっと心がほぐされるおいしい紅茶に、ほどよい甘さのふんわりシフォンケーキ。
初めて訪れたのに、まるで常連さんのように安心した気持ちになれるお店の雰囲気。
働いている人たちも生き生きとしている、素敵な場所だった。
夢や将来のヴィジョンがまったくなかった私は、雷に打たれたような衝撃を受け、それをきっかけにカフェの存在に魅了されていった。
休日にカフェを巡るのが趣味になり、やがて自分のカフェを開きたいと夢を見始めた。
お客さんだけじゃなく、従業員にとっても居心地のいいカフェ。そう、私が出会ったあのお店のように──。
具体的な夢ができてからは、カフェ経営に向かって猪突猛進。
当時は高校の授業が終わってからコンビニでレジのバイトをしてお小遣いを稼いでいたけれど、夢のためにバイト先をカフェへとチェンジした。
レシピやメニューを研究し、バイト代はほとんど貯金。
高校卒業後はもちろんカフェに就職した。日中はカフェで働きつつ、夜は開店資金をためるために寝る間を惜しんで副業のバイトのかけ持ちをする日々。
カフェオープンのために心血を注いできたと言っても、過言ではなかった。
本業と副業の労働生活をして三年目。夢の切符ともいえる開店資金がもうすぐたまる。
こんなにうれしいことはないだろう。