悪役令嬢はお断りします!~二度目の人生なので、好きにさせてもらいます~
それは、大流行中のゲームアプリの新規イベント発生のお知らせだった。巷で流行っている乙女ゲーム『ありあまる大金の力で恋愛攻略』のイベントのようだ。
ゲームはあまりしない私だけれど、これだけは別だ。『ありあまる大金の力で恋愛攻略』というタイトルからして賛否両論の異色の乙女ゲーム。
そのため、レビューには【☆5】か【☆1】という極端な評価がつけられている。
まず、注目すべきはヒロインが異色だということ。
ヒロインのマイカ・オルニスは世界でも屈指の大商会の娘で、自身は美術部門の最高責任者として大金を稼いでいる。名台詞が『攻略対象者(すきなひと)のためならば、お金は湯水のように使うわ!』というヒロインっぽくないもので、これがプレイヤーにウケている。
台詞も斬新なら、性格も斬新。
たとえば、イベントで悪役令嬢から賄賂をもらい、マイカに不利な証言をした生徒たちに対しての言動。窮地に立たされたマイカが『そんなはした金で人生棒に振ってよろしいの?』と言って、賄賂の倍以上の金を彼らに渡して正しい証言に訂正させる。
タイトルのとおり、ありあまる金を使って攻略対象者の隣の座をゲットするので、ヒロイン以外のキャラがかすむ。
「新規イベントってなんだろう……あっ、電話」
イベントを見ようとしたら、ちょうどディスプレイに着信の表示がされ、電子音が鳴った。
「凜々花だわ」
家に向かう前でよかった。買い物のリクエストなら、途中にスーパーがあるから立ち寄れるし。
「もしもし、凜々花?」
『……』
「凜々花?」
ディスプレイをタップして応答するけれど返事はなく、ただただ無音。いつもならば、すぐに『雫? あのね~』という、男子が皆心を打ち抜かれる甘い声が返ってくるのに。電波が悪い所にいるのだろうか。
電話を切って携帯アプリに切り替えようかなと思っていると、やっと声が聞こえた。
『……雫』
消え入りそうな声は震えていて、私の鼓動が大きく跳ねた。