悪役令嬢はお断りします!~二度目の人生なので、好きにさせてもらいます~
「なんで残高がゼロになっているの……!?」
 頭がくらくらしてテーブルへと倒れるように伏せると、金庫の下に一枚の紙が挟まっているのに気づく。
 えっ、なに?
 手に取ると、それは凜々花からの手紙だった。そこで真実を知った私は、奈落の底に突き落とされた。

「まさか、凜々花がお金を持ち逃げするなんて……! しかも、東部(とうべ)さんと……」
 東部さんというのは、私がほのかに思いを寄せている男性で、私が勤めるカフェの常連さんだ。
 自分で会社を経営していて、私たちのカフェ経営についてもいろいろ相談に乗ってくれた。もちろん凜々花とも面識がある。

 手紙によると、どうやら凜々花も彼を好きになり、ふたりは結ばれ子供ができた。
 けれども、東部さんは友人に騙されて背負った借金が五百万円ある。生まれてくる子供のためにも借金を綺麗にしたい。そこで目をつけたのが私たちの開店資金だった。

 ――手紙の内容をざっくりといえば、こんな感じだった。

 待って。私のお金は!? 凜々花は本当に私のことを裏切ったの? あんなにカフェがオープンする日を待ち望んでいたのに。信じられない。

 私は頭を殴られたような衝撃を受ける。せめて事前に相談してほしかった。

 夢も親友も、好きな人もお金もすべてを失い、二十一年間生きてきた中でもっとも絶望的な日になってしまった。
 壁に飾られているカフェの内装やカフェの制服のイラストがモノクロに染まっていく。

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