悪役令嬢はお断りします!~二度目の人生なので、好きにさせてもらいます~
「プレゼントの目星はついているのか?」
「んー……バレッタとかどうかなって思っているの」
マイカは毎日バレッタで髪をとめている。
毎回違うバレッタを使っていておしゃれ。
このこだわりは、キャラ設定表にも書かれていたけれど、現実も同じだ。
ゲームが進んでいくと、攻略対象者とマイカの好感度が高まり、両想いのパーセンテージが高くなると、攻略対象者はマイカへバレッタをプレゼントする。
すると、マイカはバレッタを毎日変えるのをやめ、攻略対象者からもらったものを大切に愛用するようになるのだ。
とはいえ、今のところ攻略対象者からもらっていないようだし、バレッタが好きっぽいので喜ばれるかなぁと思ったのだ。
「私がよく行くヘアアクセ屋さんがあるの。すぐそこなんだけれど……」
私が視線を向けたのは、真っ白い壁がひと際目立つ赤い三角屋根のお店だった。
入り口の扉にはステンドグラスがはめ込まれ、ショーウインドーは大きく取られている。
「さっそく行こうか」
「えぇ」
私はうなずくと足を踏み出した。
扉をアイザックに開けてもらい中に入ると、見慣れた店内が視界いっぱいに広がる。
真っ白な天井にはスズランを模したシャンデリアが設置され、棚や平台にディスプレイされている商品を淡いオレンジ色の光で包み込んでくれている。
このお店の商品は、普段使いできる代物から夜会で使用できる代物まで幅広い。
──アンティーク品とかどうかな? 通りから見えていたから気になっていたのよね。
私は窓際にディスプレイされているヘアアクセサリーを見にいった。
幾何学模様のクロスが敷かれた円卓の上に、カメオのバレッタや年代物の銀細工の髪飾りなどが並べられている。
「カメオのバレッタかわいいわ」
黒のベルベットのリボンとカメオを組み合わせたバレッタは、とても品がある。
ただ、マイカが身につけている系統ではない。彼女はいつも明るいビタミンカラーのバレッタをつけているから。
もう少し店内を見てみようかな。
今度は平台の方へ移動すると、お花をモチーフにした髪飾りが並べられていた。
バラのような華やかな花からスミレのように素朴で可憐なものまでいろいろなモチーフがある。
私が気になったのは、透明な樹脂に押し花が埋め込まれているバレッタ。
あとちょっと経つと、季節は夏を迎える。なので、クリアなバレッタは涼しげでよさそう!
ひとつひとつ見てどれが似合いそうかなと思いながら選び、黄色いポピーのバレッタと白地にヒマワリが連なっているバレッタのふたつまでに絞り込んだ。
「んー。どっちがいいかしら? どっちもマイカの髪色に似合いそうなのよね」
「決めかねているなら花言葉で決めてみるとか。黄色いポピーの花言葉は富、成功。ヒマワリは憧れ。どちらもマイカに合いそうだな」
「マイカ、お仕事をしているからポピーかな。成功って縁起よさそうだし」
十大商会のオルニス家出身。美術部門の責任者としてすごく稼いでいるから、もうすでに大成功しているけれど。
「アイザック、ありがとう。花言葉を教えてくれて。プレゼントは、ポピーにするわ」
私は手にしているバレッタを見て微笑んだ。
マイカ、喜んでくれるといいなぁ。
「シルフィ」
「ん?」
アイザックの方を見ると、彼は手に赤い花が七つ連なっている髪飾りを持っていた。
宝石でできているのか、照明の反射できらきらと輝いている。
彼はそれを私の頭部へ近づけると、凝視し始めた。
穴があきそうなくらいに見られているから、緊張するわ……。