悪役令嬢はお断りします!~二度目の人生なので、好きにさせてもらいます~

「やっぱりいいな。シルフィの髪に映えて似合っている」
「綺麗ね。なんのお花?」
「アネモネの髪飾りだ。赤だけではなく、白や紫の花を咲かせる品種もある」
 髪をざっくりまとめてこの髪飾りでまとめてもかわいいかも。最近、暑くなってきたから髪を下ろしたままだと蒸すからまとめたいし。

 マイカのプレゼントと一緒に買おうかな。

 頭の中でこの髪飾りを使ってどんな髪型にしようかなぁと考えていたら、アイザックが喉で笑ったのに気づく。

「シルフィの考えていることが手に取るようにわかる」
「か、顔に出ちゃっていた?」
 アイザックが大きくうなずいた。

「プレゼントするよ」
「えっ、いいよ。むしろ、私が助けてもらったお礼にアイザックへ贈り物をする立場だよ」
「俺はなにもいらない。シルフィとこうして一緒にいられるからさ。それに、赤いアネモネの花言葉もちょうどぴったりだし」
「アネモネの花言葉?」
「今度直接言うよ。ほかにもいろいろ髪飾りがあるようだから、見ていて。気に入ったのがほかにもあったら教えてくれ」
 アイザックはそう言うと、カウンターへ向かっていった。

 アネモネの花言葉ってなんだろう。スマホがあれば、すぐに検索できるのになぁ。

 翌日の昼。
 私はアイザックと共に昼食を取るために食堂を訪れていた。
 手にはマイカへのお礼として購入したプレゼントを持って。

 賑わう食堂内でマイカの姿を捜すと、ちょうど彼女が壁際の席でウォルガーとランチを取っているのが目に入ってくる。

 ──いたわ。お礼の品、気に入ってくれるといいなぁ。

 私は手にしている白地に水色の縁取りがされた紙袋へ視線を落とす。袋の中身は昨日購入したバレッタだ。

 マイカの好みに合わなかったらどうしようと、ちょっとした不安が心をよぎった。
 アイザックはそんな私を見ると、安心させるようにやわらかく微笑んだ。

「大丈夫。絶対に喜んでくれるから。それより、アネモネの髪飾り使ってくれたんだな」
「うん。どうかな?」
 左後頭部に髪をまとめ、片側お団子にしてアネモネの髪飾りでとめている。この髪飾りは昨日アイザックにプレゼントしてもらったものだ。

 さっそく今日から使っている。

「とっても似合っているよ」
「ありがとう」
 私はアネモネの髪飾りに触れながらお礼を言う。

 そういえば、アネモネの花言葉をまだ聞いていないなぁ。
 ちょっと気になるから、お昼ご飯を食べ終えたら図書館で調べてみようかな? ぼんやりとそんなことを考えていると、アイザックに先に進むように促されたので足を踏み出した。

 ふたりのもとへ向かうと、話しながらランチを取っているところだった。

 マイカがマシンガンのように「天使様を図書館でお見かけしたんだけれど、場の空気が違ったんですよね。図書館じゃなくて天界かな?って。あぁ、早くご一緒にお茶会がしたいですわ」と話をしているのに対し、ウォルガーが死んだ魚のような目で彼女の話を聞いている。
 こんなウォルガーを見るのは初めてかも。

「あの……お食事中に申し訳ありません。マイカ、ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
 マイカに声をかけると、なぜかざわめきが波紋のように広がっていく。
 食堂にいる生徒たちの視線が私へ集中し、無数の視線を受けた体は動かしにくい。
 一挙一動見られているようで、顔が引きつってしまう。





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