悪役令嬢はお断りします!~二度目の人生なので、好きにさせてもらいます~
「そりゃあ、そうですわよね。ウォルガー様、シルフィ様の婚約者ですもの。マイカったら、いつも親しそうにウォルガー様にベタベタしちゃって」
「ねー。ただでさえ庶民のくせに」
「おい、修羅場じゃないか?」
「天使のシルフィ様も堪忍袋の緒が切れたんだろう。ウォルガー様もなにを考えていらっしゃるのか。シルフィ様という素晴らしい女性がいるのに」
──待って! 私、別にマイカに物申すことなんてないから。
さっさと用件だけ済ませて離れた方がいいかも。変な噂を立てられると困るし。
「シ、シルフィ様!?」
マイカが驚きのあまりスプーンを皿に投げ出すと勢いよく立ち上がったため、椅子が重い音を立てながら倒れる。
「ほ、本物ですか……? それとも夢? シルフィ様が学園で私に声をかけてくださっている!」
「いや、夢じゃないし。頬を引っ張ってみたらどうだ」
テーブル越しに届いたウォルガーの台詞を聞き、マイカがウォルガーの頬に手を伸ばせば、ウォルガーの頬に赤みがさす。
「俺じゃない! 自分のだ」
「頬を引っ張ったら変な顔になりますわ。シルフィ様の前で変な顔はできません」
「俺はいいのか」
ウォルガーがやさぐれ気味に言うと、アイザックが彼の肩を優しく叩いた。
「マイカ、昨日は助けてくれてありがとう。よかったらどうぞ。気に入ってくれるとうれしいんだけれど……」
「わ、私にですか!」
マイカは極限まで目を見開くと紙袋と私の顔を交互に見たので、私は微笑んで「どうぞ」と彼女の前に差し出した。
すると、マイカは宝石でも扱うように丁寧に受け取ると、じっと紙袋を眺める。
「あ、開けてもよろしいでしょうか」
「もちろん」
マイカが袋に手を入れて取り出したのは、淡いピンクの長方形の箱だった。お店の名前が印字されたシルバーの太いリボンでラッピングされている。
箱をテーブルに置きリボンをほどいて開けると、中にはポピーのバレッタがあった。
「まぁ、素敵! これはポピーですね」
「えぇ、そうなの。花言葉をアイザックに聞いてぴったりかなって」
「ポピーの花言葉は富と成功ですね」
「マイカ、商会のお仕事をしているから縁起がいいかなって」
「ありがとうございます。バレッタをお守りにして今まで以上に稼ぎまくりますわ」
マイカは満面の笑みを浮かべると、アイザックにバレッタを印籠のごとく掲げてみせる。
クリスマスに欲しいものをプレゼントされた子供のような雰囲気の彼女に対して、アイザックは一瞥するという薄いリアクション。
──喜んでもらえてよかったわ。
私はほっと胸をなで下ろす。緊張して胃がちょっとキリキリしていたけれど、やっと治まった。
「ん? シルフィ、その髪飾り綺麗だな。初めて見た」
ウォルガーはそう言うと、私の後頭部付近を見ている。
「アネモネの髪飾りですわね。シルフィ様の髪にとても映えます。アネモネの花言葉は──」
「君を愛す」
マイカの台詞に覆いかぶさるように、アイザックの言葉が聞こえた。
アイザックが選んでくれたアネモネの髪飾り。その花言葉は今度直接私に伝えるって言ってくれた。
意味は君を愛す。えっと……それって……?
私は確認するためにゆっくりと彼の方を見ると、こちらを見つめている彼と目が合う。
情熱的な熱い視線を受け、私は目を逸らすことができない。全身の血流がよくなり、体温が上昇していくのに抗えない。