悪役令嬢はお断りします!~二度目の人生なので、好きにさせてもらいます~

「シルフィ」
 アイザックに名前を呼ばれ、私の鼓動が大きく跳ねた。
「は、はい」
「ウォルガーたちも食事中だから、そろそろ行こうか」
 そうだった。ここ、食堂。私は首を横に振って雑念を払う。

「そうね。そろそろ行きましょう。お昼の邪魔をしてしまってはダメだもの。今日は風が心地いいからテラス席に行かない? 夏になると暑くて外で食事を取れないから」
「いいな、外も」
「ウォルガー、マイカ。またね」
 私が会釈すると、アイザックは私の背に軽く触れ、その場を後にするよう促した。
 すると、「お待ちください!」という声と共に私の右腕に衝撃が走る。
 なにごと!? と思って顔を向けると、腕にマイカがしがみついていた。

「よかったらお昼をご一緒させてください」
「あのな、マイカ。ウォルガーと一緒に食事をしていたんだろ? 勝手なことを言うなよ。ここぞとばかりに割り込むな」
「絵画のオークションと同じですわ。ここぞという時に推します。それに、ウォルガー様ならいいとおっしゃってくださいますわ。だって、シルフィ様と一緒ですもの。ねぇ、ウォルガー様」
「……アイザック。俺、断れないよ。ごめんな」
「ほら、ウォルガー様も了承してくださった。さぁ、参りましょう!」
 マイカが、ランチがのっているプレートを持ち上げた。

 その時だった。「あの、シルフィ様」と言う、か細い声が聞こえてきたのは。

 あまりにも小さすぎた声だったため、私は聞き間違いかなとさえ思ったが、私以外の人が左側へと顔を向けているので間違いではなかった。

 そこにはランチがのせられたトレイを持ったマイヤーヌがいる。

「お、お昼。ご一緒してもよろしいでしょうか?」
 マイヤーヌは早口でまくし立てるように言うと、顔を真っ赤にさせ目をぎゅっとつむった。
 緊張がこちらにまで伝染してくるレベルだ。
 見ている私まで緊張してしまい、体が少し固まってしまう。

 きっとすごくどきどきしているよなぁ。
 声をかけるって、かなり勇気が必要だもの。

「もちろんです。一緒に食べましょう。アイザック、いい?」
「あぁ」
 返事を聞くとマイヤーヌは体の力を抜き、やわらかく微笑むと「ありがとう」と言って頬を緩ませた。




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