その手をぎゅっと掴めたら。

私の味方をした葉山くんへの怒りを露わにするかのように凛ちゃんは手に持っていた答案用紙をビリビリと豪快に破いた。


「ほんっと、くだらない!」


破いた紙を葉山くんに投げつけた彼女は騒がしく廊下に飛び出して行ってしまった。


慌てて早紀ちゃんが後を追う。

もうきっと私たちの関係は修復が不可能だ。


廊下を駆け抜ける凛ちゃんの後ろ姿を見て、残念ながらそう確信してしまった。もう友達には戻れない。


肩を下としていると、

「葉山くんって本当にカッコいいよね。またファンが増えるよ」

そう雪ちゃんは意地悪く言った。

「雪ちゃん?」

ふふっ、と雪ちゃんは笑う。


「私も満点だったの。つまり賭けに勝ったわけなので、昼食奢りなさいよ」

「え?」

「そういうことだから、また後でね」


意外にも雪ちゃんは少し前と同じように話しかけてくれた。

振り返れば私たちの中で唯一、凛ちゃんの意見に口を挟むことができた雪ちゃんは、自分の意志をきちんと持っていた。凛ちゃんに流されない強さをカッコいいと思う。


雪ちゃんは心の余裕を表すかのように、ゆっくりと教室から出て行った。


「葉山くん、ありがとう。…私、凛ちゃんのこと、もう諦めるね。無理に仲良くしてもらっても虚しいだけって、本当は分かってたんだよね。高校で初めてできた友達だから、こだわっちゃった」


「俺が、いるじゃん」


破り捨てられた紙切れを拾いながら、葉山くんは私を見上げた。


「君には、俺がいるよ」


私が答える前にクラス中から黄色い悲鳴が上がり、葉山くんは苦笑いしながら席に戻っていった。


「君には、俺がいるよ」ーーわ、私も気絶しそうなくらいです!

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