その手をぎゅっと掴めたら。
19時には父親と亜夜が病室に現れて賑やかになった。
血相を変えて病室に飛び込んできた父を亜夜が宥めてくれて、私に大きな怪我がないと分かると近くの丸椅子にふらふらと腰掛けた。
「本当におまえは、俺に似て鈍臭いな…」
「そんなところまで似なくていいのにね」
癖のない髪と焦茶色の瞳、薄い唇は父譲りだ。
「前田先生から連絡をもらった時は心臓が飛び出るかと思ったぞ。どうして、階段から落ちたんだ」
「忙しいのにごめんね。足を踏み外しちゃったんだよね…恥ずかいけど」
前田先生にも同じように答えた。
凛ちゃんを庇うわけではないけれど、私の不注意だ。彼女だって私を階段から突き落とそうなどと思ってもいなかっただろう。
「はぁ…亜夜ちゃんが居てくれて良かったよ」
父は離島に出張していてしばらく連絡がつかなかったと前田先生は言っていた。
「私もお父さんから連絡もらった時は思考停止しそうになりましたけど、真奈が強運の持ち主で良かったですよ」
「本当に軽症で済んで良かったよ…そういえば、親父を看取ってくれたのも亜夜ちゃんだったね。いつもありがとう」
「おじいさんの家に居候させてるもらって、たくさんお世話になりましたから。当然ですよ」
亜夜は佐野家の家族も同じだ。
出会いは星の数だけあると言うけれど、その中で家族と呼べるくらい親しい関係になれるなど、奇跡だと思う。
その奇跡を、あなたとも起こせたらいいのにね。