その手をぎゅっと掴めたら。
女性と2人は遠慮しておくよと、父なりに気を遣ったようで病院近くのホテルを予約済みだという。
「2人で美味しいものでも食べて帰って。私は大丈夫だから!」
「あんたがこんな状況じゃぁ、美味しいかどうかなんて味がしないよ。それにお父さんも遠くから来て疲れてるでしょ」
「…そうだなぁ。今日はコンビニ飯にするか。亜夜ちゃん、これで夕飯を買って」
コンビニで買い物をするには多い1万円が亜夜に差し出された。
「明日からもまたお見舞いに来てくれるんだろう?その電車賃も込みで」
すぐに受け取らなかった亜夜に対して父がそう付け加えると、彼女は両手でそれを受け取った。
「ありがとうございます」
遠慮せず気持ち良い返事に、父は満足気に頷いた。
「そろそろ面会時間も終わりだ。帰ろうか」
父の言葉に急に寂しくなったけれど、笑顔で2人に手を振る。
ああ、早く我が家に帰りたい。