その手をぎゅっと掴めたら。
消灯を迎えた真っ暗な病室で携帯の明かりに目を凝らす。
葉山くんからは着信も、メールも一切なかった。
ううん、葉山くん以外の人からもなにも連絡がなかった。友達がいないことを実感する瞬間だ。
寂しいと感じることにはもう慣れてしまった。
消化の良さそうな夕飯を完食し、身体は痛いが、痛み止めを飲めば楽になる程度の怪我で、すぐに退院できると思う。
それを葉山くんに伝えようとメールを立ち上げたけれど聞かれてもいないのに、説明するって不自然だよね。
今朝の一件がなければもっと気楽に連絡できるのに。タイミングが悪すぎるよ。
「たかが手を払われただけじゃない」
大したことではないと口に出してみたけれど、この慣れない空間では少しの勇気も出なかった。
葉山くんも気にしていて、送りにくいのかな。
そうやって自分の都合のいい方向に無理矢理に思考をもっていき、
「今日はビックリさせちゃったよね。ごめんね。でも元気だよ」
何度も文章を書き直し、結局短いメールを入れた。
葉山くんはメッセージアプリを使ってないからやり取りはEメールで、既読か未読かは分からない仕様だ。
携帯を置いて、そっと目を閉じる。
朝になったら返事が来ているといいな。