その手をぎゅっと掴めたら。

ホームルームが始まり、前田先生は私を見て大きく頷いた。病院まで付き添ってくれたお礼を後でちゃんと言わないとな。


しかしお昼休みが始まっても凛ちゃんは現れず、それはもう教室の中では当たり前になっているようで誰も彼女の話題を出さなかった。

あの時、私が階段から落ちなければ、凛ちゃんの話を聞くことができたのに。ドジだなぁ。


凛ちゃんの家には何度か遊びに行ったことがあるけど、突然訪ねてもいいものなのかな。プライドの高い彼女のことだから、私が行ったところで会ってはくれないかもしれないけれど。

それにしばらくは真っ直ぐ帰宅して安静にすると亜矢と約束した。もうしばらく様子を見てそれでも凛ちゃんが登校しなかったら、雪ちゃんに相談して会いに行ってみようかな。


「風邪引いてない?」

「全然大丈夫だよ。食欲もあるし」


いつもの焼きそばパンを食べ終え、ブラックコーヒーを飲む葉山くんの隣りで亜夜の手作りサンドイッチを頬張る。


「葉山くんこそ風邪引いてない?」


「俺も平気。佐野に全部、話せてすっきりした。好きな子に隠し事とか、本当はしたくなかったし」


葉山くんの口から飛び出した"好きな子"に、胸がぎゅうっと締め付けられる。

あれ?これが女子高生の会話で聞く『胸がキュンキュンする』ってこと?

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