その手をぎゅっと掴めたら。
いつもと同じ時間に扉が開き、青山さんが姿を見せた。白いシャツを着た彼は相変わらずの爽やかな佇まいだ。
「先週はごめんね!大学で色々あって、来れなかったんだ。本当に申し訳ありませんでした」
入り口で立ち止まって頭を下げられ、慌てて説明する。
「私も入院していたんです。だから気にしないでください」
「入院?どこか悪いの?」
カウンター席まで早足でやってきて、私のことをじっと見つめた。
「階段から落ちてしまいまして。でも軽傷で済みましたので、元気です。今、淹れるので座ってくださいね」
青山さんも病気でなくて良かった。
「階段?頭とか打たなかった?」
「はい。少し腰にあざができたくらいで、すぐに治ります」
「そっか。良かったね…」
やっと椅子に座った青山さんは祖父特製のトートバッグを隣りの席に置いた。
「不幸中の幸いってやつだね」
「お医者さんも頑丈すぎるって驚いてました」
「葉山くんも心配したでしょう」
「はい…」
青山さんと会わなかった2週間の間に、実は別れ話を切り出されたんです。と伝えようか迷ったが、もう解決したことだから、そっと口を閉じた。