その手をぎゅっと掴めたら。

自分のスペースを確保しようともがく満員電車。

今朝は一本早い電車に間に合ったせいか、吊り革を掴める位置をキープできた。


ーー今日は英語の小テストだよ。嫌だなぁ。
凛ちゃん宛に1日1通、おはようメールを送り続けている。

既読スルーでも心は折れない。
それって一応、内容を確認してくれているってことじゃん。電源を切ることをせず誰かと繋がりたいと、彼女が思っている証拠だよね。

だから、青山さんのアドバイス通り毎日送ることにしている。


眠い瞼をなんとか開けながら、英語の教科書を開く。

嘘告白のきっかけは小テストだった。
偽りの私の言葉はあっさりと受け入れられて、今ではかけがえのない存在となったことを、あの日の私には想像できないだろう。



その"きっかけ"を与えてくれた凛ちゃんに、まだお礼が言えていないのだ。


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