その手をぎゅっと掴めたら。
中学時代の私は学校をずる休みしたことはあったが、何週間も続けて休むことはしなかった。
風邪が長引いたという言い訳が通用する範囲で休んでいた。父に心配をかけたくない一心で、勇気を振り絞って登校していた。
「葉山くんが学校に来ようと思ったことには、なにかきっかけがあったの?」
日直当番の葉山くんを手伝い、黒板に書かれた英文を消す。
「あ、言いたくなかったら言わないでね」
2年間、学校に通っていなかった彼の心を動かしたもの。気にならないと言ったら嘘になる。
「俺は前田先生かな。色々あってから1年くらい経った頃かな。うちの高校に赴任してきた先生は、不登校の俺という存在を知って、しつこいくらい訪ねてきた」
前田先生?
少し意外だった。
「学校に行こうが休もうが俺の将来だから、あんたには関係ないだろうって言ったらさ。"葉山くんのためじゃない、学校のためだ"って言うんだよ。ほら、俺は入学試験でトップ成績だったから、その俺が真剣に勉強すれば良い大学を狙えるし、それは結果的に学校のためになるからって。だから先生は学校の名誉のために俺を説得しているって言ったんだ」
教師らしさの欠片もない台詞に、笑ってしまう。