その手をぎゅっと掴めたら。
きっかけは罰ゲーム。
そう思っていたけれど、本当は瞬さんが繋いでくれた縁だった。
「瞬が好きだったブラックコーヒーと、焼きそばパンを食べて、彼の真似をして、俺はいったいなにがしたいのか自分でも分からないんだ。もう二度と会えないことは分かっているのに」
切ない彼の表情を見て、胸が痛いほどに締め付けられる。まるでノリ付けされてしまったみたいに口が開かない。声が、出ない。
「親友はトラックと衝突して亡くなった。猛スピードで走ってくるトラックが見えた俺は手を伸ばしたけど、瞬には届かなかった」
脳裏に広がる、赤。
「ーージェットコースターで怖がる君を見て、手をとってあげることもできない。親友を救えなかったこの手で、君の手をとることが…怖い。怖くて仕方がないんだ。また、届かなかったらどうしようって」
「…っ、」
いつの間にか溢れた涙が、膝の上で握り締めていた手の上に落ちた。
葉山くんは目を潤ませていたけれど、泣いてはいなかった。
声をかけたいのに、軽率に葉山くんの手に触れようとした己を恥じることしか、できなかった。