その手をぎゅっと掴めたら。
放課後、誰もいない教室。
彼氏と2人。
甘い妄想をしてしまいそうだけれど、私たちは机の上をごしごしとタオルで拭いている。
色気など程遠く、Yシャツの袖をめくって落書きと格闘中だ。
「こいつ字が汚すぎ」
「わざと雑に書いてるんだよ。聞いたことないよ、達筆な嫌がらせなんて…あ、やっと、落ちた!」
「落ちたな」
生徒会室から借りてきたスプレーのおかげで跡も残らず綺麗になった。むしろ今までよりもピカピカに磨かれた気がする…。
「葉山くん?」
濡れたタオルを干すため窓際に近付いている間に、葉山くんは私の席に座った。
そしてキュッキュッとマジックの音がする。
「……」
「俺も落書き」
油性ペンを指で器用に回して、
机から顔を上げた葉山くんは楽しそうに笑った。太陽よりも眩しすぎる笑顔だ。