その手をぎゅっと掴めたら。

「いらっしゃいませ」

祖父愛用の黒いエプロンを身につけて、開いた扉に頭を下げる。


「おじゃまします」


青山さんは金曜日の17時ちょうどに店を訪れる。

この近くで家庭教師のアルバイトをされているようで、毎週その帰りに立ち寄ってくれる。


「オリジナルブランドをお願いします」

「かしこまりました」


いつもと同じカウンターの席に座った青山さんは身長180センチ程あり、モデル体系だ。

黒縁眼鏡をかけた大学生で、笑うとあどけない表情が見られる。いつも白いシャツと細身のパンツをまとっている爽やかな好青年だ。


祖父の家に遊びに来た時に紹介してもらい、あれからもう3年近く経っていると思う。


「バッグ、使ってくださっているのですね」

「うん。このデザイン、お気に入りだよ」


数年前、祖父が常連客に配った白色のトートバッグ。絵が上手な祖父の力作で、コーヒーカップと愛くるしいクマのイラストが入っている。

ちゃっかり"さの喫茶"と刺繍入りで、お店の宣伝を忘れていないところも祖父らしい。


「私もお気に入りで毎日、学校に持って行ってます」

「サイズもちょうどいいしねー。学校どう?」


「…あんまり上手くはいってないです」


カウンター越しに青山さんとお話しすることも恒例になりつつあり、人見知りの私でも話しやすい雰囲気を作ってくれている。

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