その手をぎゅっと掴めたら。
2杯目のコーヒーを飲み干して、青山さんはカウンターに千円札をそっと置いた。
「ご馳走様でした。とても美味しかったよ」
「まだ祖父のレベルまで至らなくてすみません。青山さんが帰国する時までには腕を磨いておきます!」
「うん、ありがと。今でも十分美味しいけどね」
白い歯を見せて爽やかに笑った青山さんは軽く手を挙げて、お店を後にした。
空っぽのカップを見て、嬉しくなる。
おかわりをしてくれることは青山さんの気遣いだろうけれど、まずいものを無理に飲んではいないかといつも心配になる。
私も亜夜もブラックコーヒーは苦手で、味もよく分からないしーーあ、。
葉山くんなら感想言ってくれるかな。
さすがにうちに招待することは難しいけれど、水筒に淹れていくことはありかなぁ。
おじいちゃんが残したお店の常連客は青山さんだけになってしまい、それも期限付きだ。
いつか私が立派な大人になった時、お店をもう一度再開できたらいい。それが私の密かな夢である。