その手をぎゅっと掴めたら。

翌朝は机にまた落書きされていたらどうしようという憂鬱な気持ちと、葉山くんをデートに?無理!無理!と嘆きながら廊下を進む。

亜夜はオススメのデートスポットは調べてくれたけれど、誘い方までは教えてくれなかった。自然で、それでいて断られた時に気まずくならない誘い文句ってあるの?


あれこれ考えながら教室に入ると、窓から爽やかな風が吹き抜け、机の上に伏せていた葉山くんの髪がなびいていた。


葉山くん、来てたんだ。今朝は早いな…。


微動だにせず、眠っているようだ。
起こしてしまっては申し訳ないので挨拶を控えて、そっと自分の机を伺う。


幸いにも落書きはなく、ほっと胸を撫で下ろす。
良かった…。


部活の朝練が長引いているようで教室には2人きりだ。相手は眠っているのに、亜夜がデートに誘えと言うものだからひとりで緊張している。

そもそも私たちは恋人同士であっても、気軽に遊びに誘えるような関係ではなく、不思議な距離感なのだ。

< 64 / 311 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop