その手をぎゅっと掴めたら。
しばらくして、
「おかわり、いい?」
「あ、うん」
手が震えそうになり、慎重にコーヒーを注ぐ。
カップを渡す際に誤って手が触れないよう、細心の注意を払いながら。
この間、お金を渡そうとして振り払われた時のことが浮かぶ。ああ、また失敗したのかな?
ブラックコーヒーを口に含み、葉山くんは口を開いた。
「俺はまだ佐野に言えてないことがある。きちんと伝えるから、もう少しだけ時間をくれますか?」
「あ、はい…」
私に言えないこと?言いにくいこと?深刻なこと?
「あ、他に付き合っている子がいるとか、忘れられない人がいるとか、そういうことではないからね」
「そっか」
少しだけ、安心した。
恋愛のことではないとすると…
もしかして。
嫌な予想をしてしまい、胸がキリキリと痛む。
「もうひとつ、聞いてもいい?」
「うん」
これだけは、聞いておきたい。
これ以上はもう詮索しないから、だから正直な答えが欲しい。
「その、葉山くんが、重い病気とか?そういうことは…」
返事が怖くて目を逸らしたい衝動に駆られたが、じっと葉山くんの反応を伺った。