その手をぎゅっと掴めたら。

少女漫画でよくあるヒーローがヒロインにする隠し事は2つだ。


ヒーローにはヒロイン以上に好きな人が、または過去の恋人が忘れられないという秘密。

もしくは、病に侵されているかーー。


どちらも暗く、辛い想像だ。


そう、ただの想像に過ぎないんだ。



「病気か…」


私を真っ直ぐに見つめて、彼は首を振った。


「安心して。俺は健康です」

「……」


そう言って笑顔を見せてくれた葉山くんの言葉に嘘はないように思えた。


「そ、そうだよね。変なこと聞いて、ごめんね」


確かめずにはいられなかった。

今まで恋や愛に興味すら湧かなかったけれど、今なら少女漫画のヒロインの気持ちがよく分かる。

好きな人に恋人がいようと、過去の恋愛に囚われていようとーー生きててくれさえいればそれでいい。そんな願いにも似た叫びが、今は痛いほど理解できる。



「ううん。俺の身を心配してくれてありがとう」


聞いて良かった。
心がすっと軽くなった。


周りの雑音が耳に届く。
近くで小鳥がさえずる音も聞こえた。


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