その手をぎゅっと掴めたら。
とても幸せな気持ち。
私にはもったいないくらいの…でも後一つ言わないとならない。
「私ね、凛ちゃんたちと仲直りしたくて。ある賭けをしたの」
「また賭けか」
お弁当をしまい、ベンチからブランコに移動した私は空を見上げる。
今のところ勝敗は神のみぞ知る、と言ったところだ。
「昨日の英語のテストで、私が凛ちゃんたちより点数が高かったら、仲直りしてもらえるの」
「それで?負けた場合は?」
「葉山くんと、別れるって……」
始まりも賭け、終わりも賭け、なんてシャレにならない。だからこそ精一杯、勉強したつもりだ。
今度は申し訳なくて葉山くんを見られなかった。
「でも、できる限りのことをしてテストに望んだから、やりきったから…」
「全て出し尽くしたから、例え俺と別れることになってもいいってこと?」
「そうじゃない!そうじゃないけど、もちろん別れたくないし…でも凛ちゃんは私の高校生活最初の友達だから、チャンスが欲しくて」
言い訳をつらつらと並べてなにになる?
葉山くんの傍に居たいし、凛ちゃんも失いたくない。わがままな感情を吐き出して、これで負けたらどうする?私は全てを失うというのに。
「……まぁ説教はその結果が出てからにするよ。君が勝って、何事もなく終わるかもしれないしね」
困ったような返事。
「…うん。ありがとう」
私たちにはそれ以上、相手にかける言葉が見つからず、ブランコが揺れる度に鎖の鈍い音だけが響いていた。