その手をぎゅっと掴めたら。
制服も絵になるけれど私服姿も素敵で、店内の女性の目を惹くことも理解できる。
熱い視線は慣れているようで葉山くんは運ばれてきたコーヒーを平然と口にしている。
これがモテる側の人間の世界か…。
私の彼氏だから見ないでとか、彼と付き合えていることに対しての誇らしい気持ちとか、様々なものが入り混じっておかしな感想を抱いてしまった。
「なに笑ってるの」
「え?笑ってた?」
「口元が笑ってた」
葉山くんに指摘されて、慌てて口を真一文字に結ぶ。
「それじゃぁ怒ってるみたいだよ」
「怒ってはないよ?」
「知ってる」
女性の視線が葉山くんに集まる中で、私が笑えているのは彼が私のことしか見ていないからだ。
私だけを見ていてくれる。
「で?何考えてたの?」
「葉山くんとお洒落なカフェに来れて嬉しいなって」
「俺は、佐野とならどこでも行くよ。君が一緒なら、どこまでも」
優しい返答に一瞬にして顔がにやけてしまう。
私のことを好きになってくれる男性など現れないとついこの間まで本気で思っていたのに、今はもうこの甘い空間にどっぷりと浸かってしまっている。
「私も葉山くんと一緒であれば、どこにでも行けるよ」
「それが地獄だとしても?」
「地獄?…うん、どこへでも」
ずっと一緒に居たいから、どこへでも着いて行く。