その手をぎゅっと掴めたら。
10分程度経つと焼きたてのパンケーキが運ばれてきた。
素早くナイフとフォークを渡してくれた葉山くんにお礼を言い、早速頬張る。
優しい甘さの中に苺の酸味が良いアクセントになっていて、4段重ねの1枚目をあっという間に食べてしまった。
「美味しいね」
「苺も美味しいな」
器用にナイフを使ってパンケーキを口に運ぶ葉山くんを見て、ふと気付く。
「ごめん。葉山くん、甘いものは苦手だよね?」
今更の質問に配慮のない自分を殴りたくなる。ブラックコーヒーを好む彼が甘党なはずがない。
甘いものがメインのカフェに、葉山くんを連れてくるなんて場違いだ。
少し考えたら分かることだったのに。
お店の評判を優先し、葉山くんのことをなにも考えてなかった。大失敗だ。
「大丈夫。甘いのは普通に好きだから」
「でも…」
「嫌いだったら、もう少し甘さ控えめであろうショコラケーキを選ぶよ」
「……ごめんね」
「いやいや、本当に甘いものは好きだよ。ただコーヒーはブラックなだけで」
その言葉を証明するかのように葉山くんはパクパクとパンケーキを食べていく。
あっという間に私が追い越されてしまった。
「葉山くんは甘いものが好きだと信じていいのね?次からもたくさん、スイーツのお店に連れて行っちゃうよ?」
「どうぞどうぞ。好き嫌いはないので」
特別嫌そうでなく、むしろ爽やかな笑顔を浮かべた葉山くんに嘘はないように見受ける。
「というか、それって次のデートの誘い?有り難く受けさせていただきます」
「葉山くん…」
やっぱり葉山くんは私より上手だった。