月の光に響く時
空気が重くなってしまったので、無理やり逃げるしかないと思った。

もぞもぞと体を滑らせるようにこの人から抜け出そうとした。


「あの・・私、帰らないとっ」

「行かせん」



私の腕を掴み、離そうとはしてくれない。


「は、放してくださいっ」


私の言葉に握る手の力が更に強くなった。


「痛っ・・」

「そうやって・・また・・行ってしまうのか」

「え?」

「また・・あいつの所に」


あいつ?

誰?


「今度こそ俺が捕まえた。お前は誰にも渡さない」

「あのっ・・律・・鬼さん!?」

「それにな、覚えていないなら教えてやる。お前は他の鬼にも狙われている。外に出れば危険だ」

「な、なんでですか!?」

「月の巫女だからだ。特殊な力を持っている。要らぬ存在だと斬り捨てられるか、その力を利用するか」

「え・・じゃあ貴方も!?」

「違う!!俺は・・・」


ドキっとした。

嘘を言っている顔じゃないと思った。

心配してくれている顔だった。苦しそうな。悔しそうな。


「俺は・・お前と一緒に穏やかに過ごしたいだけだ」


「律鬼・・さん」


今日初めて会ったのにどうしてだろう?

この人の顔が、表情が、想いが凄く心に伝わってくるのは。

声がダイレクトに脳にビリビリと電気みたいに伝わってくる。


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