月の光に響く時
2019年8月。

夏の真っ只中だ。

チチチチ・・・と何処かの木でひぐらしが鳴いている。




「沙夜ー?おじいちゃんが蔵の掃除手伝って欲しいってー」

「おじいちゃんが?」

「もうちょっとで終わりそうなんだけどって。これから日が落ちちゃうから手伝って欲しいんじゃない?」

「もー。めんどくさいなー」

「そんな事言わないの。頑張ったらお小遣い貰えるんじゃないの?」

「よしやるか」

「この子ってば全く・・」



その日、私は祖父に呼ばれて本家の大蔵に向かった。

私の家は本家の隣にある。

両方とも100年以上前に建てられた木造の古民家だ。


「変な空の色・・気持ちわる・・」


空を見上げると夕焼けが紫色に染まっていて、いつもとは違う空だった。


本家の蔵の前に着くと大きな木造の扉が開かれていて、おじいちゃんは中にいるらしかった。

扉の前には古びた小物が沢山並んでた。

掛け軸やら壺やら、蔵に年中ずーっと眠っていたおじいちゃんのコレクションだ。


「おじいちゃんー?来たよー?」


「おお、沙夜。待ってたぞ」


真っ白な顎髭を撫でながらおじいちゃんはひょっこりと顔を出した。


「この荷物たちを優しく丁寧に蔵へ戻してくれよ」


「はーい」


「優しく丁寧にな」


「わかってまーっす」


私は口ではそう言いつつも無造作に近くにあった壺を両手で持ち上げる。


「う・・重い」


「絶対に落とすんじゃないぞ」


ギラン。とおじいちゃんの目が光る。

逆に脅しだからそれ。

ゆっくり足元に気を付けながら私はその壺を蔵へと運んだ。
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