月の光に響く時
律鬼さんはしばらく帰ってこなかった。

私はどうにかして部屋から出られないかと扉の前でずっと考えていたけど、
外に出たら他の鬼に襲われるんじゃないかと思い結局部屋にいるしかなかった。

そんな時、


コンコンコン

と丁寧なノックがして、奏が中に入ってきた。


「ちゃんと大人しくしている様ですね」


「あの・・律鬼さんは」


「我が主が気になりますか?」


そりゃ気になるよ。私を幽閉している張本人だし。

コクリと頷いてみた。


「なんでも凄い形相で出て行きました。何か言ってはいけない事を言ったんじゃないですか?」

ドキン


「え?・・何も」


「へえ・・そうですか」


ニコリ。

としているけど笑っていない事なんてもうお見通しだ。

奏は私を嫌っている。

その雰囲気は肌で感じている。


「さて」


といいながら奏は腰に差していた小刀を抜く。


ゾクリ


その小刀の切っ先をちらつかせる様に見せてきた。

この人が一番危険な存在なのではないかと思う。

何より私の事が嫌いなのだから。


「ここは城の一番高い場所にあります。そこの天幕をめくると、天守閣が出てきて、外を見晴らす事が出来ます」


くい。と刀で私に合図する。

開けろと言う事だ。

私は言われた通りにした。

抵抗など出来るわけがない。


「落ちたら死ぬくらいの高さですが・・」


ドキン


嫌な予感しかしない。

奏は刀を私に突きつけながらぎりぎりまで促す。

私の後ろはすでに外。下には山々がそびえている。

私は手すりいっぱいまで追いやられた。


「大丈夫です。殺しはしません。私は律鬼様のしもべです。貴女は律鬼様の大切な方ですから」


「じゃ、なんで刀を向けてるの」


「これは脅しです。約束してほしいんです」


「何を?」


「律鬼様を苦しめないでください」


「え!?」



スッ・・と私の首筋に刀をあてながら、悔しそうな顔を向けてきた。


「1000年も待ったんです。貴女を・・あの方は」

「そ、そんな事言われても・・」

「前回は紅家が運よくあなたを手に入れましたが、今度は我々蒼鬼が頂に立つ番です。律鬼様がすべての鬼の王となる」

「鬼の王・・?」



じゃあ律鬼さんも?

あの人もやっぱり、自分の天下の為に私を幽閉している?

あの切なそうな顔は嘘って事?演技?

そういうことなの?

でもよくよく考えてみればそうだよね。

封印が溶けて自由になって、鬼の繁栄の為に私を殺すのが普通だってこの人言ってたし・・。

この人と律鬼さんが同じ考えなら。

あんな辛そうに見つめてきたのはこの城の鬼達の為なの?

私に情で訴えてきただけ?


ガンと頭に大きな岩が落ちてきた様な衝撃を受けた。

私、ショック・・らしい。


「う・・そ」


別に好きって訳じゃない。けど、なんでこんな苦しい気持ちになるの?

騙された感じがする。
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