名前も知らない貴方のことが
6月12日//


この日は雨が降っていて

電車の中の人は

みんなどんよりしていて




今でも鮮明に思い出すことができる。

あの日、

私は人生でいちばんの勇気を振り絞ったんだ。




_____

6月12日//


俺は生まれて初めて、

自分で大きな選択をした。


いままで人に流されて生きてきて

だれかに言われたから、

最初から道が決まっていたから、


そんなことをずっと言い訳にしていた。



自分の将来について

深く考えるようになったのは半年ほど前。


さまざまなステージに立つようになって

自分の仕事はたくさんの人を喜ばすことができるんだ、そう思った。


だけど、1人の男として、

どうしても気になってしまう人がいた。



名前も知らない、年齢も知らない。

分かっているのは近くの高校に通っていると言うことと、

いつも電車で俺の向かい側で、

幸せそうに、時には難しい顔をして

俺のことを見つめている。



そんな彼女のことを

いつからか俺は気になって仕方なくなっていた。
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