君が隠した私の秘密
「小桜さん。8×6、分かりますか?」
小学生のような問題。
なぜこんな簡単なことを聞いてくるんだろう?
「48、です」
この質問で何が分かるんだろう?
「……小桜さんは、両親の名前、言えますか?」
「両親の…名前?」
……あれ?
思い出せない。
名前というか、顔すらも、分からない。
なんで?
「分かりません。…顔すら、分かりません。」
嫌な予感がする。
「……小桜さん。落ち着いて聞いてください。」
さっきまで笑顔だった先生が、急に真面目や顔になる。
「まだ、確定ではありませんが…」
無駄に言葉を詰まらせる先生。
私の不安はどんどん膨らんでいく。
「小桜さんは、事故の後遺症で、」
「記憶喪失、と見られます。」
ーー記憶喪失
なんとなくどんな病気なのかは分かる。
でも、まさか自分がそんな病気だとは信じられない。
「ど、どういうーー「きおく、そうしつ…?」
私の言葉を遮るように、扉の方からさっきの彼の声が聞こえた。
「あ…一ノ瀬さん、聞いていたんですか。」
"一ノ瀬"それが彼の名字らしい。
「…先生。それは治るんですよね?ひなは、思い出せますよね!?」
目を潤ませながら必死に訴えかれる一ノ瀬くん。
「申し訳ありませんが、記憶喪失というのは個人差があります。」
「もしかしたら明日記憶が戻るかもしれませんし、1ヶ月後かもしれません。」
冷静に説明する先生。
なんだか申し訳ない気持ちになる。
私のせいで一ノ瀬くんが泣いていること。
私のせいで一ノ瀬くんを傷つけていること。
「一ノ瀬、くん」
たまらなくなり、彼の名前を呼ぶ。
「ひな…?」
さらに涙を流す一ノ瀬くん。
「私のせいで、ごめん。だから、どうか泣かないで…」
「ひな…」
切ないその声を聞くと、自然と私は彼に触れたくなった。
サラサラの髪を耳にかけ、長いまつ毛に溜まった涙を拭う。
改めて綺麗な顔だな、と思う。
こんな人を泣かせてしまうなんて、バチが当たりそうだ。
「あの、先生。」
彼に笑顔になってもらうため。
私は絶対に記憶を戻そうと思う。
「どうされましたか?」
相変わらずの笑顔で私を見る。
「私、絶対に記憶を戻したいです。方法はなんでもいいです。だから…」
「"ひな"の事を教えてください。」