君が隠した私の秘密
「ひな、起きてるか?入るぞー」
翌日、一ノ瀬くんは朝から私の所へ来てくれた。
「うん、起きてる。おはよう」
私は昨日驚くほどぐっすり眠れた。
おかげで今日はいつも以上に体が軽い。
「ひな、俺昨日いろいろ考えたんだ。とりあえず、ひなのことをたくさん教えるな。」
一ノ瀬くんが私のことを考えてくれたことがなんだかすごく嬉しかった。
「…ありがとう。」
そんな在り来りな事しか言えない。
もしかしたら、前の"ひな"はもっとかわいいことが言えたかもしれないな。
そう思うと急に罪悪感が生まれる。
「いいんだ。俺がしたくてしてることだから…」
そう言って頭を撫でてくれる一ノ瀬くん。
そうしている時の一ノ瀬は、まるですぐに崩れてしまいそうな硝子玉を触れているようだった。
愛おしそうな目。
その目を見ていると吸い込まれてしまいそうだ。
直視できなくて、パッと目をそらす。
「なんで逸らすんだ?」
少し笑いながら言う一ノ瀬くん。
「あ、えっと…」
動揺が隠せない。
言葉に詰まり、黙り込んでしまう。
「…あ、そういえば!」
何かを思い出したようで、私から手を離す。
「俺の名前、知らないよな?」
…そういえば名字は知っていたけど、本名は知らなかった。
首を縦に振って、彼の言葉を待った。
「俺、一ノ瀬 嶺って名前。」
嶺。一ノ瀬くんにぴったりな素敵な名前。
「前…って言ったら変かもしれないけど、記憶喪失になる前のひなは、嶺くんって…呼んでた。」
少し恥ずかしそうに、顔を赤らめる一ノ瀬くん。
そう伝えてくれるってことは、名前で呼んで欲しい…ってことかな?
改めて口にしようとすると、なんだか恥ずかしくなってしまった。
「そ、そうなんだね…」
嶺くん、って言おうとしたけど、なかなか言葉に出ない。
「…あ、いや、別に無理して言って欲しい訳じゃない。今まで通りでもいいから…」
気まずそうに顔を逸らす一ノ瀬くん。
私も気まずくなって、沈黙が続く。