そして最後の嘘をつく
「ピアノ、弾けるの?」

尋ねられて、僕はにこりと笑う。

「ほとんど弾けませんよ。」

あの部屋には、見られては
いけないものがたくさんある。

コンクールの賞状やトロフィー、
創作楽譜、それから...。

僕が出場した最後の地区コンクールで
撮った、如月さんも映っている集合写真。

僕は、自分が速水 碧だと
如月さんに知られたくない。

いつのまにか如月さんの
全てに惹かれて好きになっていた。

僕が、速水 碧だと知れば如月さんは
喜ぶだろうし、今はピアノが弾けないのだ
と知れば彼女は落ち込むだろう。

彼女にはいつも笑っていてほしい。
僕の手でその顔を暗くさせたくない。
そんな思いがあった。
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