そして最後の嘘をつく
音が鳴らない
如月さんはあの日から、
ときどき僕の部屋に来るようになった。

そういうとき、僕は決まって
豚肉の料理を作るようにする。

僕たちは赤の他人で、
それなのに何故か僕は
如月さんに惹かれていた。

妬んでいたのかもしれない。
僕にはないものを、如月さんは
当たり前のようにもっている。

やがて、僕は彼女のことを
柚さんと呼ぶようになった。

彼女は相変わらず僕のことを
高校生くん、という名前で呼ぶ。

『名前は何て言うの、高校生くん。』

『アンダーソンです。』

『嘘つけ。』

という感じで僕が名前を言わないからだ。

そうやってしょうもない嘘をつくのも
嫌いではなくむしろ楽しかったが、
僕は彼女に自分の名前を
知られてはいけない事情があった。

このことを知れば、
きっと彼女は傷付くから...。
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