昔飼ってた犬がイケメン男子高校生になって会いにきた話
葉月は今にも泣きそうな顔でハルを見ている。
ハルはいつも寝ているお気に入りのベッドで身を横たえながら、苦しそうに呼吸をする。目には力がなくなり、体温が下がって体が氷のように冷たい。
そんなハルは数日前から散歩ができなくなった。
「散歩だよ」と葉月が言っても、体を動かす体力も気力もなく、ただ葉月の方を見つめるだけ。
ご飯も段々と口にすることがなくなっていた。ハルは茹でたささみが大好きなのだが、今のハルにささみをあげても食べようとはしない。
元気だった頃のハルなら、散歩をする時は嬉しそうに尻尾を振って、葉月のいるところまでリードを加えて持ってきたり、ご飯も興奮しながら食べていたと言うのに。
これら全てが死ぬ前の予兆なのだと思うと、葉月は悲しくてたまらなかった。
「お父さん、ハルが苦しそうだよ」
「そうだね。もうすぐハルは天国に行ってしまうかもしれないね」
「天国に行ったら、もうハルには会えないんだよね」
葉月は自分の胸辺りの服を掴んで握り締めた。
ハルにはもう永遠に会えないのだと思ったら、胸が押し潰されるような痛みがして苦しくなったのだ。
「そんなことないんじゃないかな」
「だって天国だよ? 死なないと行けないでしょ?」
「うーん……どうだろうな。ごめん、それは僕にはわからないよ。でも、ハルは優しいから、きっと天国から僕たちを見守ってくれるだろうし、もしかしたら、僕たちの住んでいる地上に遊びに来てくれるかもしれないよ。ほら、例えばお盆とかにさ」
「そうなの?」
信じられないと言う顔で葉月は父を見た。
「まあ、保証はできないけどね」
「えー。適当に言わないでよ」
葉月が怒ったように言うと、父は苦笑するだけで、他に何も言わなかった。
「でもその話が本当なら、例え死んだとしても、もう一度ハルに会えるってことだよね?」
「多分ね。本当に会えるかどうかはハル次第だと思うけど」
「ハルならきっと会いに来てくれるよ」
「まあ僕もそう思うけど、もしハルが僕たちのことを恨んでて、会いに来てくれなかったらどうする?」父は葉月に意地の悪い笑みを浮かべて言った。
すぐに葉月の顔は真っ青になり、
「ええ……」と言った。
「ハハ。もしもの話じゃないか。それにさっきも言ったけど、ハルは優しい上に賢いから、きっとまた会いに来てくれるに違いないさ」
そんな父の言葉を聞いて、葉月は「もー! そんなこと言わないでよねー」と怒りつつも、少し安心することができた。
その後、ハルが寂しくならないようにハルの名前を何度か呼んだ。
「ハル、ハル、私はここにいるよ」
名前を呼ばれたハルは葉月の方に目を動かすだけだった。
(ハルがまた元気になりますように)
葉月は心の中でずっと願った。
しかし、その願いは届くはずもなく、今のハルの状態がそれ以上よくなることはなかった。
「ハル」
段々、葉月の呼びかけにも反応をしなくなっていた。
葉月は呼びかけを続けながらも、ハルの体を優しく撫で続けた。
葉月がしばらく撫で続けていると、ハルの体は突如、痙攣を起こした。
「ハル! お父さん、ハルが」
「うん」父も悲しいのかそれ以上は何も言わなかった。
しばらく痙攣を起こした後、ハルは大人しくなった。
父が心音を確認する。
「駄目だ」
「死んじゃったの?」
「ああ━━」
父のその言葉を聞いた瞬間、葉月は泣いた。死んで石のように冷たく硬くなってしまったハルを抱き締めながら。
ふと父を見ると、薄っすらだが目が潤んでいるように見えた。
葉月が産まれた時からずっと一緒にいたハル。
いつかこんな日が来るのではないかと覚悟はしていたけど、いざ逝ってしまうと、悲しくてどうしようもない。
でも、ハルと一緒に過ごした時間は宝物だよ。
ハル、今まで本当にありがとう。
☆
ハルはいつも寝ているお気に入りのベッドで身を横たえながら、苦しそうに呼吸をする。目には力がなくなり、体温が下がって体が氷のように冷たい。
そんなハルは数日前から散歩ができなくなった。
「散歩だよ」と葉月が言っても、体を動かす体力も気力もなく、ただ葉月の方を見つめるだけ。
ご飯も段々と口にすることがなくなっていた。ハルは茹でたささみが大好きなのだが、今のハルにささみをあげても食べようとはしない。
元気だった頃のハルなら、散歩をする時は嬉しそうに尻尾を振って、葉月のいるところまでリードを加えて持ってきたり、ご飯も興奮しながら食べていたと言うのに。
これら全てが死ぬ前の予兆なのだと思うと、葉月は悲しくてたまらなかった。
「お父さん、ハルが苦しそうだよ」
「そうだね。もうすぐハルは天国に行ってしまうかもしれないね」
「天国に行ったら、もうハルには会えないんだよね」
葉月は自分の胸辺りの服を掴んで握り締めた。
ハルにはもう永遠に会えないのだと思ったら、胸が押し潰されるような痛みがして苦しくなったのだ。
「そんなことないんじゃないかな」
「だって天国だよ? 死なないと行けないでしょ?」
「うーん……どうだろうな。ごめん、それは僕にはわからないよ。でも、ハルは優しいから、きっと天国から僕たちを見守ってくれるだろうし、もしかしたら、僕たちの住んでいる地上に遊びに来てくれるかもしれないよ。ほら、例えばお盆とかにさ」
「そうなの?」
信じられないと言う顔で葉月は父を見た。
「まあ、保証はできないけどね」
「えー。適当に言わないでよ」
葉月が怒ったように言うと、父は苦笑するだけで、他に何も言わなかった。
「でもその話が本当なら、例え死んだとしても、もう一度ハルに会えるってことだよね?」
「多分ね。本当に会えるかどうかはハル次第だと思うけど」
「ハルならきっと会いに来てくれるよ」
「まあ僕もそう思うけど、もしハルが僕たちのことを恨んでて、会いに来てくれなかったらどうする?」父は葉月に意地の悪い笑みを浮かべて言った。
すぐに葉月の顔は真っ青になり、
「ええ……」と言った。
「ハハ。もしもの話じゃないか。それにさっきも言ったけど、ハルは優しい上に賢いから、きっとまた会いに来てくれるに違いないさ」
そんな父の言葉を聞いて、葉月は「もー! そんなこと言わないでよねー」と怒りつつも、少し安心することができた。
その後、ハルが寂しくならないようにハルの名前を何度か呼んだ。
「ハル、ハル、私はここにいるよ」
名前を呼ばれたハルは葉月の方に目を動かすだけだった。
(ハルがまた元気になりますように)
葉月は心の中でずっと願った。
しかし、その願いは届くはずもなく、今のハルの状態がそれ以上よくなることはなかった。
「ハル」
段々、葉月の呼びかけにも反応をしなくなっていた。
葉月は呼びかけを続けながらも、ハルの体を優しく撫で続けた。
葉月がしばらく撫で続けていると、ハルの体は突如、痙攣を起こした。
「ハル! お父さん、ハルが」
「うん」父も悲しいのかそれ以上は何も言わなかった。
しばらく痙攣を起こした後、ハルは大人しくなった。
父が心音を確認する。
「駄目だ」
「死んじゃったの?」
「ああ━━」
父のその言葉を聞いた瞬間、葉月は泣いた。死んで石のように冷たく硬くなってしまったハルを抱き締めながら。
ふと父を見ると、薄っすらだが目が潤んでいるように見えた。
葉月が産まれた時からずっと一緒にいたハル。
いつかこんな日が来るのではないかと覚悟はしていたけど、いざ逝ってしまうと、悲しくてどうしようもない。
でも、ハルと一緒に過ごした時間は宝物だよ。
ハル、今まで本当にありがとう。
☆