昔飼ってた犬がイケメン男子高校生になって会いにきた話
仕事帰り、葉月はスマホを片手に電車の中で揺られていた。

『見てくださいこれ。めちゃくちゃ美味そうじゃないですか?』

 翔はラインで、『新作の期間限定スペシャルピーチパンケーキ』と書かれているパンケーキの店のウェブの広告写真を送ってきた。

『美味しそう。期間限定なんだ』

『そうですよ。パンケーキ好きにはたまりません笑』

 翔はあれから特に変わった様子はなく、今まで通り普通に接してきている。

こんなに普通なら、あれほど大げさに気にすることはなかったのではないかと思うくらいだ。

 今なら思い切って、翔の気持ちを訊いてみてもいいかもしれない。

葉月は翔に訊く決心をした。

『いきなりだけど、一つ訊いてもいい?』

『そんな改まってどうしたんですか笑 もちろんいいですよ』

『私は翔にとってどう言う存在?』

 ラインを送った本人でありながら、葉月の心臓はドクンと高鳴った。

『いきなりですね』

『気になるから訊いてみた』

『俺にとって葉月さんは、なくてはならない大切な存在です』

「えっ」

 葉月は電車内にもかかわらず大きな声を出して驚いた。

 周囲にいた人々の全員の視線が葉月にいった。

葉月は周りを見て、「すみません」と小声で言い、羞恥心を感じながらも再びスマホに視線を戻した。

“なくてはならない大切な存在”

 会ってまだ間もない年下男子に、まさかそんな風に言われるとは思いもしなかった。

想定外の返事に戸惑いながらも、葉月は翔に返事を返す。

『それってどう言う意味?』

『何か急に恥ずかしくなってきた笑 さっきのは聞かなかったことにしてください』

 葉月は翔に答えを誤魔化され、煮え切らないでいた。

本当はもっと詳しくどう思っているのか訊きたかったが、これ以上は訊くに訊けない。

遊ばれているのだろうか。

そんな不安が一瞬頭をよぎったが、考えれば考えるほど穴に嵌ってしまいそうな気がして怖くなった。

翔が葉月のことを恋愛として好きなのか、そうじゃないのか、結局はっきりとした答えは出ないまま、堂々巡りを繰り返す。

考えても無駄だ。これからも気にしないを徹底しよう。

これ以上翔の気持ちを考えないために、葉月は車窓の景色をぼんやりと眺めた。

  ☆
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