昔飼ってた犬がイケメン男子高校生になって会いにきた話
「ねえ、翔」
「何ですか?」
「お手」葉月はそう言って翔の前に掌を差し出した。
すると、翔は何の躊躇いもなく葉月の掌の上に手を乗せた。
「やっぱり!」
葉月は翔がハルだった時のように、お手をしてくれたことが嬉しくて声を張り上げた。
「何がやっぱりなんですか。て言うか俺に何をさせるんですか」
翔は若干顔を引きつらせながら怒っているようだった。
「ごめんごめん。何か先輩の彼氏の犬が芸をやるって聞いたものだから、犬が恋しくなっちゃって。翔は犬の感覚が残ってるみたいだし、もしかしたらやってくれるかなって。怒ってる?」
「そりゃ怒りますよ。俺はもう人間なんですから、そう言うのはやめてください」
「絶対に駄目?」
「駄目です」
「おかわり」
葉月はまた翔の前に掌を差し出した。
すると、翔は怒っていたにもかかわらず、また逆の手を葉月の掌の上に乗せた。
「葉月さん」
翔の声は先程よりも怒りに満ちた声に聞こえた。
葉月はその声を聞いて、さすがにもうやめることに決めた。
葉月の思惑通り、翔はハルだった時の芸をやった。葉月はその事実に満足していた。
翔がハルの生まれ変わりとわかってからと言うもの、葉月は翔に会いたくてたまらなかった。だから今日は珍しく葉月から翔を家に呼んだ。
いつもは翔から誘ってくることが多かったのだが、ハルの記憶を持つ翔と、葉月はもっと仲良くなりたいと思ったのだ。
「あの、葉月さん」唐突に翔が言った。
「何?」
「こんなこと言うのも何なんですけど、お父さんと仲直りしませんか?」
葉月はそれを聞いた途端、表情を曇らせる。
「何で?」
「だって、このままでいいわけないじゃないですか。俺、あんなに仲良かったお父さんと葉月さんが仲悪いままなのは嫌ですよ。だからお願いします。仲直りしてください」
翔は葉月を真剣な眼差しで見ている。
「私言ったよね。あの人が不倫してたこと。だから私はあの人のこと許すつもりはないよ」
「それは確かに聞きました。でも、じゃあいつ仲直りするんですか? もしかしてこのまま一生口を利かないつもりですか?」
「それは……」
葉月は言葉に詰まった。
このまま一生口を利かないなんてことは考えたことはなかった。しかし、不倫をしている父のことを許せるはずがなかった。
あの日見た光景を、夢であればいいと一体何度思ったことだろう。夢であれば許せるのに。
「正直お父さんが不倫をしたって聞いた時は、俺もかなりショックでした。でも、それってちゃんと話合って解決した方がよくないですか? このまま口を利かないでいても、何も変わらないと思うし」
「ごめん、翔がそうやって考えてくれるのは嬉しいけど、私やっぱり無理だよ。だって四年だよ? 私とあの人が話さなくなったのって。そんなに時間が経ってるのに今更って思うし。どんな顔して何を話せばいいか分からない。それにお母さんと言う人がいながら不倫をしたこと、私許すつもりないから」
「俺が協力します。だから、俺と一緒にお父さんのところへ行って、話し合いましょう」
翔は真っ直ぐに葉月を見つめていた。葉月がイエスと言うのを待っているようだった。
「━━無理」
「何でそんな子供みたいなこと言うんですか」
「無理なものは無理」
頑なに断る葉月を見て翔は呆れていた。
だって、そんなことできるわけがない。
今まで母や祖父母、親戚にどれだけ説得されても話さなかったのだ。翔に言われたくらいで実家に行くほど、葉月の意思が弱いわけではない。
「分かりました。じゃあ今日のところは諦めます」
翔は小さく息をつきながら言った。
「でも、俺まだ諦めませんから。葉月さんがお父さんと仲直りするまでは」
どうやら翔の意思も固いようだった。
葉月は翔の言うことをただ大人しく聞いていた。
しかし、心の中では、翔には関係のないことであって、これは父と自分の問題なのだと思っていた。
翔がハルの生まれ変わりで同じ家族だったとしても、この件については関わってほしくない。放っておいてほしい。
なぜ翔がこんなにも必死になって仲直りをさせようとするのか、葉月には理由がわからなかった。
でも、翔が今後何を言おうが、意地でも自分の意思を変えるつもりはないと葉月は思った。
☆
「何ですか?」
「お手」葉月はそう言って翔の前に掌を差し出した。
すると、翔は何の躊躇いもなく葉月の掌の上に手を乗せた。
「やっぱり!」
葉月は翔がハルだった時のように、お手をしてくれたことが嬉しくて声を張り上げた。
「何がやっぱりなんですか。て言うか俺に何をさせるんですか」
翔は若干顔を引きつらせながら怒っているようだった。
「ごめんごめん。何か先輩の彼氏の犬が芸をやるって聞いたものだから、犬が恋しくなっちゃって。翔は犬の感覚が残ってるみたいだし、もしかしたらやってくれるかなって。怒ってる?」
「そりゃ怒りますよ。俺はもう人間なんですから、そう言うのはやめてください」
「絶対に駄目?」
「駄目です」
「おかわり」
葉月はまた翔の前に掌を差し出した。
すると、翔は怒っていたにもかかわらず、また逆の手を葉月の掌の上に乗せた。
「葉月さん」
翔の声は先程よりも怒りに満ちた声に聞こえた。
葉月はその声を聞いて、さすがにもうやめることに決めた。
葉月の思惑通り、翔はハルだった時の芸をやった。葉月はその事実に満足していた。
翔がハルの生まれ変わりとわかってからと言うもの、葉月は翔に会いたくてたまらなかった。だから今日は珍しく葉月から翔を家に呼んだ。
いつもは翔から誘ってくることが多かったのだが、ハルの記憶を持つ翔と、葉月はもっと仲良くなりたいと思ったのだ。
「あの、葉月さん」唐突に翔が言った。
「何?」
「こんなこと言うのも何なんですけど、お父さんと仲直りしませんか?」
葉月はそれを聞いた途端、表情を曇らせる。
「何で?」
「だって、このままでいいわけないじゃないですか。俺、あんなに仲良かったお父さんと葉月さんが仲悪いままなのは嫌ですよ。だからお願いします。仲直りしてください」
翔は葉月を真剣な眼差しで見ている。
「私言ったよね。あの人が不倫してたこと。だから私はあの人のこと許すつもりはないよ」
「それは確かに聞きました。でも、じゃあいつ仲直りするんですか? もしかしてこのまま一生口を利かないつもりですか?」
「それは……」
葉月は言葉に詰まった。
このまま一生口を利かないなんてことは考えたことはなかった。しかし、不倫をしている父のことを許せるはずがなかった。
あの日見た光景を、夢であればいいと一体何度思ったことだろう。夢であれば許せるのに。
「正直お父さんが不倫をしたって聞いた時は、俺もかなりショックでした。でも、それってちゃんと話合って解決した方がよくないですか? このまま口を利かないでいても、何も変わらないと思うし」
「ごめん、翔がそうやって考えてくれるのは嬉しいけど、私やっぱり無理だよ。だって四年だよ? 私とあの人が話さなくなったのって。そんなに時間が経ってるのに今更って思うし。どんな顔して何を話せばいいか分からない。それにお母さんと言う人がいながら不倫をしたこと、私許すつもりないから」
「俺が協力します。だから、俺と一緒にお父さんのところへ行って、話し合いましょう」
翔は真っ直ぐに葉月を見つめていた。葉月がイエスと言うのを待っているようだった。
「━━無理」
「何でそんな子供みたいなこと言うんですか」
「無理なものは無理」
頑なに断る葉月を見て翔は呆れていた。
だって、そんなことできるわけがない。
今まで母や祖父母、親戚にどれだけ説得されても話さなかったのだ。翔に言われたくらいで実家に行くほど、葉月の意思が弱いわけではない。
「分かりました。じゃあ今日のところは諦めます」
翔は小さく息をつきながら言った。
「でも、俺まだ諦めませんから。葉月さんがお父さんと仲直りするまでは」
どうやら翔の意思も固いようだった。
葉月は翔の言うことをただ大人しく聞いていた。
しかし、心の中では、翔には関係のないことであって、これは父と自分の問題なのだと思っていた。
翔がハルの生まれ変わりで同じ家族だったとしても、この件については関わってほしくない。放っておいてほしい。
なぜ翔がこんなにも必死になって仲直りをさせようとするのか、葉月には理由がわからなかった。
でも、翔が今後何を言おうが、意地でも自分の意思を変えるつもりはないと葉月は思った。
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