昔飼ってた犬がイケメン男子高校生になって会いにきた話
葉月は二時間ほど残業をして帰ることになった。

まだ残業をしている最中の朱里に「お疲れ様でした」と挨拶をして会社の外に出ると、辺りは既に真っ暗だった。

 今日は朝からテレビで不倫の報道がやっていたり、実は月野と朱里が半年前に付き合っていて、月野の浮気が原因で朱里と別れた事実を聞いたり、具合が悪くなるようなニュースばかりだった。

 父のことを忘れたかったのに、何でこうも思い出すようなことばかり起こるんだろう。

 ツイてないな、と葉月は思った。

 すると後ろから足音が聞こえて、「長谷川さん」と誰かが葉月を呼んだ。

振り向くと、早坂がいた。

「早坂さん、どうしたんですか?」

「俺も今終わったとこ。よかったら駅まで一緒に行かない?」

「いいですよ」

早坂は優しく微笑むと、「よかった」と言った。

「仕事終わるのって、いつもこの時間なんですか?」

「いや、今日はまだ早い方かな。いつもはもっと遅いよ」

「そうなんですね」

「うん、だから今日は長谷川さんと一緒に帰れてラッキーだったかな」

 葉月は早坂の言ったことに驚いて、「え?」とだけ発した。

「何でもないよ」

「あ、はい」

 それはどう言う意味なのかと葉月は一瞬思ったが、早坂が何でもないと言うため、深く考えるのをやめた。

お互いに何も話さず、しばらく気まずい時間が流れた。

その状況に耐えられなくなったのか、早坂が口を開いた。

「長谷川さん、最近元気なさそうだよね」

「そんなに元気なさそうでした?」

「うん、かなり。だからどうしたのかなって気になってた」

「そうだったんですね」

 心配してもらって有り難いと言う気持ちと、申し訳ないと言う気持ちが混ざり合って、葉月は複雑な感情になる。

「言えないことだったら別にいいんだけど、俺でよかったら話してよ。話すだけでも楽になるかもしれないし」

「でも━━」葉月が言いかけたところで早坂が口を開いた。

「俺じゃ無理、か。大丈夫。話せるようになったら、また話してよ。いつでも相談相手になるからさ」

 早坂は葉月に弾けるような爽やかな笑顔を見せた。

「ありがとうございます」

 葉月は自分に優しくする早坂が不思議で仕方なかった。もしかしたら皆に優しいだけかもしれないけど。

 駅に行くまでの間、二人は早坂の趣味であるカメラの話で盛り上がった。カメラの話をしている時の早坂は、普段見る早坂とは違って生き生きとしていた。

葉月はそんな早坂を意外に思うと同時に、新たな一面を垣間見れたような気がして何だか嬉しくなった。

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